夢ヲ写ス者

1/23
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ

夢ヲ写ス者

 後輩の話をしよう。  父の勧めでテニスを習っていた僕は、当たり前だが、強い。高校時代には、優勝こそ逃したものの、インターハイに出場した。そのくらいの実力だと思ってくれればいい。当然、大学に入っても続けてはいるのだが、二年目になって、ある意味、危機を迎えている。  後輩についてだ。  僕は、上下関係にあまり口をはさむタイプではない。だが、今年の一年生は少しひどいのかもしれないかな、と思ったりする。理由は簡単。練習に来ないのだ。  大学のクラブ活動の難しいところではあるのだが、なぜか部活とサークル、二種類存在するクラブがある。テニスも例外ではなく、我がテニス部と、テニスサークル、二種類ある。うちの学校では、部活の方が活動が本格的である。これは、部とサークル、互いの公認事項である。はっきり言うと、サークルは遊びなのだ。愛する砂山に言わせれば、うちの学校は、という一例ではあるらしいのだが。  例の後輩(特定の一人なのだが)は、楽なサークルを選ばずにわざわざ部に入った。それにもかかわらず、彼は部活になかなか顔を出さない。バイトなどがあるのならばまだわかる。しかし、彼は毎日合コンに参加しているらしい。たまにしか練習に出ないので、腕が鈍り、当然ではあるのだが、僕たちにコテンパンにされる。すると、ラケットをコートに叩きつけ、挙句の果てに、陰口をたたきながら帰っていく。  まあ、そこまでならまだいい。  昨日は、嫌がらせとでも言わんばかりに、テニスのボールをすべてばら撒いて帰っていった。当然、部員たちは怒った。もちろん、僕は怒れない。ひっそりと、笑顔を作るだけ。  だから、今日の彼は『刺殺体』。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!