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「ああー、疲れた! 休憩しよう、リュカ」
これで8回目。彼は木の根元に腰を下ろして大きく息を吐いた。報酬をもらった手前置いていくわけにもいかず、先を行っていたリュカは仕方なく戻ってきて剥き出しの根にちょこんと座った。
「まだけっこう遠いの?」
リュカが少年なので気易く話しながら彼は困ったように眉尻を下げた。彼らはまだ森さえ抜けていない。これからは岩場や坂道を越えていかないといけないのに。
「あと半分くらい」
「ええーっ! まだそんなにあるんだ」
大袈裟に崩折れる彼は、背中のリュックが荷崩れしそうになって慌てて起き上がった。
「ところで、僕の名前は覚えてくれた?」
「トマス」
リュカが呟くと、彼はこの上なく嬉しそうに笑った。この質問はもう5回目だ。最初の2回は敢えて覚えなかったリュカだが、こう何度も聞かれては嫌でも記憶に残ってしまう。
「名前なんて、覚えてどうするの。どうせもう会うこともないし、すぐに忘れるよ」
「また会うかもしれないじゃない。それに名前を知らないと呼び止めることもできないし」
トマスは明るい姿勢を崩さない。一方リュカも笑顔を浮かべることはなかった。しかしその表情が少しだけ陰る。
「二度と会わないし、トマスはきっと僕のことなんてすぐに忘れちゃうよ」
「リュカ……」
そんなことない、と言う代わりに、トマスは宝石の袋が入っていたのとは別の内ポケットから小さなノートを取り出した。そこにサラサラと何かを書いて、その面をリュカに向けた。
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