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そこに描かれていたのはリュカの似顔絵と名前。
「これで忘れないよ」
暖かい微笑みを浮かべたトマスの手からノートを両手で受け取り、リュカはそれをまじまじと見つめた。鏡に映したかのようにそっくりなリュカの絵。口元が笑っているところだけが違っていた。
ずっと黙って絵を見るリュカに、トマスは照れ臭そうに笑って言った。
「そんなに気に入ってくれたなら、あげるよ」
リュカがパッと顔を上げた。驚きと喜びが微かに見て取れた。リュカは丁寧に丁寧に紙を破り取り、もう一度それを見つめて折ると、ポケットの中に大切そうに入れた。
「行こう」
突然リュカは立ち上がった。
「早く行かないと、月がいなくなる」
そしてトマスのリュックを持ち上げ、自分が背負った。リュカは多い時で月の半分はここを登山する。脚力はトマスよりも強かった。
「ま、待って、リュカ!」
トマスは慌てて立ち上がり、さっさと歩いていく案内人の後ろ姿を追いかけた。
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