月明かりの下で

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月明かりの下で

正規のルートを辿ると、夕暮れから5時間ほどでユーステラの花の谷に着く。トマスのペースは遅く、おまけに何度も休憩を要求して座り込むために、月は既に真上まで来ていた。 リュカは簡単な道を選んでトマスを先導する。彼は少し捻くれているため、気に入らない客には遠回りさせて大変な思いをさせたがる。 初めてリュカに気に入られた客、トマスは、上り下りの少ない岩の割れ目の道を進んだ。両側にそそり立つ壁のような岩。日中に見上げると高いところに一本、細い光の線が見えるはず。今は夜の暗闇の中なので、リュカの持つ光だけが洞窟のような空間を照らしていた。 両手を広げれば届いてしまう細い道を抜ければ、ひと山越える必要がなくなる。この先は直接谷につながっていた。 「着いたよ」 足を止め、リュカは背中のリュックを下ろしてトマスに返した。 「ああ、本当にありがとう、リュカ。荷物まで持ってもらって、情けないったら……」 楽な道とはいえ、体力のないトマスはヘロヘロになりながらリュックを受け取った。改めてゴールを見つめると、視線の先はまるで開いた扉から内側の光が漏れているかのように明るい。そこから甘い香りのする風が吹き込んできた。 トマスは期待に胸を高鳴らせながらリュカの示す方向へゆっくりと歩き出す。 「うわあ!」 彼もまた例に漏れず、驚きの声を上げた。そして暫くの間立ち尽くす。一面の白い花畑は満月に照らされて淡く輝いていた。 「こんな美しい景色、見たの初めてかもしれない……」 彼は長い時間谷を見渡したり、足元の花を観察したりしていたが、おもむろにリュックの中身を取り出した。 4090ede2-f26d-49f6-b227-422c34e5b191
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