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出てきたのは組み立て式のイーゼル。テキパキと準備し、トマスはキャンバスを立てた。彼はリュックの底から次々と画材を取り出すと、早速パレットに絵の具を広げ始めた。
リュカは後ろに突っ立って、水を得た魚のように生き生きしているトマスを見つめていた。
「よし、じゃあ、リュカはちょっと休んでいてね」
振り返ってウィンクすると、トマスはキャンバスに向かい、ペインティングナイフで色をのせ始めた。
まず薄い青一色に塗られたキャンバス。
徐々に天は青と黒で夜を作りだす。星を散りばめた空に、真ん丸の大きな月が出現した。地上が優しく、静かに照らされる。
そこに白いユーステラの花の輪郭がぼんやりと描かれる。それは徐々にハッキリとした形を成していった。透ける花弁。反射する光。葉の深い緑。遠くの岩肌も鉱石を含みキラリと輝いている。
「絵描きなの」
「うん。普段は人物画が多いんだけどね」
トマスは振り返ることなく答える。
「宮廷画家なんだ。さっき渡したあのネックレスは報酬だよ。ストレスの多い仕事さ。本当の姿は絵の具で隠して、美しく描かないといけないからね」
皮肉っぽく笑う声。リュカはその場にストンと腰を下ろし、絵ができていくのを見つめていた。
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