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「案内には金がかかる」
「それも聞いてるさ」
大男は皮肉めいた笑いを浮かべると、腰のポシェットから皮袋を引っ張り出した。机に置くと硬貨が詰まっている重い音が部屋に響いた。髭男は中身を確認すると、「おい」と二階に向かって声を張り上げた。
すぐに上の階から気怠そうな声が聞こえた。ギシッと木の軋む音。それからトントンと足音をさせて少年が降りてきた。
「リュカ。仕事だ」
髭男が低い声で少年に告げた。彼は黙って隅の衣類掛けのてっぺんから深い緑色の帽子を取ると、そのまま頭に被せた。
大男が少年を見る。彼の肌は真っ白で、鼻の頭だけが薄っすらとピンク色を帯びていた。端の吊り上がった目でジッとこちらを見る彼は、口を不愉快そうにへの字に曲げている。緑色のストールを首に巻き、準備を整えると戸口の前に立つ。
人というよりは森の妖精のような少年。欲にまみれた客を谷に案内すべく、木の扉を開けた。やはり機嫌の悪い扉は不平を述べた。
外に出ると、しっとりと湿った空気に森の匂いが混じって流れてきた。
「今日は花見日和だな」
後についてきた髭男が、空に輝く満月を見上げて呟いた。
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