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しばし呆然とした後、男は正気に戻り、しゃがんで足元の一輪を摘んだ。ユーステラの花の白は神聖で瑞々しく、5枚の花弁は、下方から雄しべと雌しべを包み込むように咲いていた。
男の顔が欲望に歪む。
「俺自身が金持ちになれるように願うだけでもいいんだがな。商売ってのは面白いもんで、売り買いしていくうちに成功のための人脈ができていくわけよ」
聞いてもいないのに饒舌に語り出した男。自身の背中からリュックを下ろす。
どうやら花が枯れないように処置するための、保存容器やら水やらが入っているようだ。
男は出来るだけ多く持ち帰られるよう、一心不乱に花を摘み始めた。
リュカは少し離れたところでその様子を傍観する。案内人になってから随分足元の花が減ってしまった。その視線を遠くに移す。
延々と続く花畑。いつかこのような客によって、向こうの方まで荒らされてしまうのだろうか。
「見てるのは、幻の花だよ」
ぽつりとこぼした言葉は、男の耳には届かなかった。
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