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「じゃあな。ありがとうよ」
下山した男は爽やかな笑顔で礼を述べると、リュカが案内した町の荷馬車に乗り込んだ。そこには都市に向かう人たちが既に5、6人座っていた。
眩しい朝日が照らす中、荷馬車がガラガラと音を立てて小さくなっていく。徹夜で下山した疲れから、男は大きな欠伸をしていた。
リュカは相変わらずの無表情で彼を見送ると、ふいと身を翻して歩き出した。
彼が向かったのは路地裏にある小さな酒場。扉を開けると入り口に付いた錆びた鐘がコロンと濁った音を立てた。
「待ってたよ、リュカ」
カウンターに座って待ち構えていた女性は、ニヤリと笑った。こんな時間なので酒場には一人も客がいない。リュカは足音を立てずに彼女に近づき、ぶっきらぼうにポケットから金を取り出してカウンターテーブルに置いた。
「そんな顔すんじゃないよ。この仕事のお陰で生きてるんだからさ」
「もうやめればいいのに。さっき帰った人も、今頃全部忘れてるよ」
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