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変わった客
あれから一ヶ月後の満月の日。
ユーステラの花が最も美しく輝く日に、また一人の客が小屋の戸をノックした。
ビン底のような丸眼鏡を掛けた彼は、リュカに負けず劣らずひょろりと細く、その体に不釣り合いな大きなリュックを背負っていた。
ボサボサのモップのような茶髪、少し大きめの深緑のコート。真っ赤なマフラーをぐるぐる巻いている。大きな口を左右に引いて、彼は笑った。
彼を見た「出迎えのヒゲ男」は胡散臭そうな目で青年を見た。
「どうも! ユーステラの花の谷への道案内がいるのはこちらですか?」
丁寧な言葉遣いと明るい表情。これまでの客と違って野心を感じられない。とはいえ大切な収入源だ。ヒゲ男は彼を招じ入れた。
「どうやってここを知った?」
お決まりの言葉は、さも「秘密の谷の花」というのが巷で流出していない印象を匂わせる。普通の客はここでニヤリとほくそ笑むのだが、彼は言いにくそうに苦笑いした。
「お恥ずかしい話なんですが。ロッテルヌという町の酒場で腐ってたところ、隣に座っていた方から情報を得まして」
ははは、と笑いながら頬をかく。ヒゲはキッチンで木の実茶を淹れているリュカを振り返った。
「ミレネかも」
リュカが口にしたその名に彼の目は輝いた。
「そうそう! ミレネっていう、アッシュブロンドの綺麗な髪の女性で、瞳は透き通る緑で……美しかったなあ……」
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