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山の麓で
落ちた夕日は西の空に橙色の余韻を残していた。巨大な岩が直立する山の麓に、一件の木造りの家がある。それを見つけた男はホッと息を吐いた。どうやらあれが話に聞いた場所のようだ。
奥は一歩足を踏み入れるのもはばかられるほど、濃い霧で暗い森。冷気に混じって滑り出てきたそれが、足元を隠してしまう。
森を横目に見ながら、男は家の戸を荒々しくノックした。
静かな足音が近づいてくる。ぎいぃ、と古くなった蝶番の音と共に扉が半分開き、溢れてきた光の中からずんぐりとした髭の男が顔を見せた。
「ユーステラの花の谷への道先案内人がいるってのは、ここのことか」
身の丈が2メートルはある筋肉隆々の客人は不敵に笑った。髭男は表情一つ変えることなく「入りな」と低い声で言い、奥へと引っ込んでいく。
大男は満足げに彼に続いて、頭をぶつけないように屈んで家の中に入った。
小屋の中はカンテラの揺らめく灯りで照らされていた。
「どうやってここを知った?」
髭男はギョロリとした大きな目で相手を見る。
「まあ、ちょっとした酒場で情報を仕入れたんだ。なんでも『願い事を叶えてくれる花』があるらしいじゃねえか」
彼の答えに、髭男はフンと不服そうに鼻を鳴らす。
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