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第14章 襲撃! 魔王軍!!
武器屋を出て俺たちは、次は防具屋巡りをした。
ここで俺は、この町でもっとも高価で頑丈だった『鉄の胸当て』を購入した。
アイネスと同じ防具である。……もちろん男の俺のほうがサイズは一回り上だったが……。これが2500バルク。
それに28バルクの『ロングブーツ』と130バルクの『騎士のマント』を購入。ってわけでいまの俺の装備はこうだ。
エルド:『魔刀工の剣』『鉄の胸当て』『ロングブーツ』『騎士のマント』
「うん、まあまあサマになったな」
剣はもう『漆黒の剣』じゃない。
なにせ呪いは解けたんだからな。
それにしても、剣を格安で買えたのはよかった。防具に力を入れることができたもんな。
で、あとは食糧と水、薬なんかを50バルクで買いそろえた。とりあえずメシは10日分の乾パンや干し肉があれば大丈夫だろう。
そして最後に、長旅には絶対必要なもの――そう、馬車を800バルクで買いそろえた俺たちは、いよいよ南東のバックスの村へと向かい始めたわけだ。
あ、ものほしざおとこんぼうは合計3バルクで叩き売りました。
こんぼうが3バルクで、さおは――言わなくても分かるな?
街道をゆく。
草原の中のけもの道を、ガラゴロガラゴロ。
馬車がゆっくりと進んでいく。馬をたくみに操っているのはアイネスだ。うまいもんだ。馬術なら俺より上だろうな。さすがは騎士の家系ってことか。
「エルド様。バックスの村まで、どれくらいの時間がかかるのでしょう?」
「10日くらいで着くはずだぞ。なあ、アイネス?」
「ああ、馬車ならそれくらいだろう。歩きだったらもっとかかるがな」
前を向いたまま答える、アイネス。
姫様とのおしゃべりなのに後ろも向かない。
アイネスって真面目だけど、ルティナ姫だけとは、まだしもざっくばらんに会話するよな。まあそこが幼馴染ってことか。
「10日。王家の墓に出向いたときのように、野宿でしょうか」
「いえ、姫様。バックスの村に向かう街道沿いには、宿場が点在しているはずです。野宿をするときもあるかもしれませんが……ときどき宿に泊まることは可能かと」
「本当!? それなら湯あみもできそうね。よかった……」
「その宿代、誰が払うんだよ。ふたりともポケットマネーは持ってきてないんだろ?」
「あっ! そ、そうでした。……え、エルド様にこれ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきませんね……」
「姫様、ご安心ください。いざとなったらこのアイネス、家宝のレイピアを叩き売ってでも――」
「冗談だよ、冗談! 心配しなくても3人分、宿代くらい出してやるよ。なんてことないって」
「――なんと器の大きい……! さすがはわたしのエルド様です!!」
「わ、た、し、の? わた――い、いけません姫様! そのような発言、国家が許しても私が許しませんとも! なんと、なんと破廉恥な――」
「お、おいコラ、蛇行してる蛇行! 馬車が! 馬が! 前を向け前を! なんでこんな会話のときに振り向くんだお前は!!」
で、数時間後。
夜。宿屋にいる。
街道沿いに建っていた、2階建ての宿屋は、ひとり5バルクと破格な値段のわりには綺麗な宿だった。その上、料理もうまい! ねぎの入ったポタージュスープとポークステーキ、それに麦パンのセットがたまらなく美味。ルティナ姫も喜んで夕食をぱくつき、
「ぷ、っは~~~~~~~!!」
なんて、姫様にあるまじき満足な声をあげている。
「おいしゅうございました~。先日山奥の村で食したオートミールも美味でしたが、ここのはもっと美味しかったです~」
「姫様……口元にパンくずがついていますよ……」
「王宮のメシ食いなれてる姫様が、ここまで喜ぶとは……」
「だってわたし、つい先日までドラゴンが運んでくる野草とか小動物の焼肉とか食べていましたし~。お城にいたころだって、財政難でろくにごはんが食べられず、わたしみずから野ウサギをワナでゲットして食べていたほどで」
「おいたわしや、姫様。私たち家臣団が至らぬばかりに……」
「あれ、でもアイネスはあんまりがっつかねえな。なんでだ?」
「あ、我が家は自宅の庭に果物がいっぱいなるものだから、いつもけっこうお腹いっぱいで」
「いや分けてやれよ、それ。姫様に」
まあとにもかくにも、この宿の夕食はハイレベルだった。
で、それから俺たちはお互いの部屋に戻り(山奥の村のときと違って、ちゃんと俺と女性陣は別の部屋だ)、それから、
「というわけで私と姫様は湯あみに行ってくる」
宿の2階の自室にいると、やってきたアイネスから報告を受けた。
そう、この宿には大浴場もついている。すなわちこれから、ルティナ姫たちは入浴ターイムだ。
あ、もちろん男湯と女湯は別々ね。
「エルド様は、まだ入浴なさらないのですか?」
「俺はまだいいや。メシ食ったばっかだし、少し休憩して入る」
「エルド。……覗くなよ、女風呂」
アイネスが、すごい顔で言った。
「なんちゅう顔してんだ……モンスターみたいになってるぞ」
「私は心配でならん。なにせルティナ姫はこの通りの美貌とスタイル! ディヨルド王宮時代から不届き者が何度も登場していたのだ。当然みんな捕まえられて島流しの刑になったが!」
「はあ……」
「アイネス、そんな大きな声で……というか、エルド様なら覗かれてもいいのに……」
「というわけで覗くな。絶対だぞ」
やたら念を押してくるアイネスに前にして、俺はため息をついた。
「はいはい、覗きません覗きません。てか覗き覗き言うならお前も気をつけろよ」
「え? ……な、なにが」
「アイネスだって可愛いんだからさ。覗きの被害に遭うかもしれねえだろ、だから気をつけろって言ったんだよ」
「かっ……!」
アイネスの顔が、瞬時に真っ赤になった。
「かわい……あ、はい。ありがとう……気を……つけます……はい……」
アイネスは全身を真っ赤にしながらうつむき、いきましょう姫様、と小声で言った。はーい、となんだか事態がよく呑み込めてない感じのルティナ姫がアイネスの後ろにくっついていく。それでやっと静かになった。やれやれ。
「ま、こんなもんかな……」
ルティナ姫たちが入浴している間、俺は改めて、『魔刀工の剣』の手入れをしていた。
刀身を綺麗に磨き上げて、そして、あの中古店からサービスで貰った翠色の鞘の中に、長身の剣をカッチリとおさめる。
かと思うと、引き出して、さっと構えをとったりしてみる。……うん、こりゃいいや。いい買い物したぜ。この剣ならどんな敵でも遅れはとらねえぞ、きっと。
さて、ルティナ姫たちもそろそろ風呂から上がるころかな?
出てきたら、俺も入浴しようかな――と、そう思っていたそのときだ。
「うわああああああああああああああああッッ!」
「な、なんだ!?」
野太い男の悲鳴が聞こえた。1階からだ!
俺は鞘に入れた剣を背中に背負うと、ただちに部屋を飛び出して、1階に向かった。
すると、そこでは――
「た、助けて……助けてくれえ!」
宿の主人が恐怖に顔を歪めたまま、宿のカウンターの前で尻もちをついていた。
そして宿の入り口からは――木製の扉がブチ破られて、なんと、何体ものガイコツが、のっしのっしとこちらに向かって歩いてきていたのである。
「ガイコツが襲ってくる? モンスターか!」
俺は魔刀工の剣を引き抜いて構えを取る。
早くもこいつの初陣だ。頼むぜ相棒、と思ったとき、
「ク、ク、ク……」
不思議な声が聞こえてきた。
はてな、と思って目を凝らすと、ガイコツの集団の中から、真っ黒なマントに身を包んだ少年が登場する。
「君が、ルティナ姫をドラゴンから救出した男か。なるほど、良い面構えをしている」
瞳にかかった黒髪を、さっとかきあげた。――なんだかキザな雰囲気の、しかし真っ白い肌が印象的な美少年は、しかしどう見てもまっとうな人間じゃなかった。なにせガイコツ集団の中から出てきたんだからな。
「お前、何者だ」
俺は、問うた。
美少年は、微笑を口許にたたえている……。
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