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第15章 必殺! 魔法剣!
「ひとは僕をこう呼ぶ」
美少年は、キザな笑みを浮かべながら言った。
「魔王軍『死の騎士団』団長――ジャスティア」
青白い双眸に、白い素肌が印象的なその男――ジャスティア。
背丈は俺より少し低く、160センチ代前半だろうか。しかし漆黒の外套に身を包んだ彼からは、確かに威圧感のようなものを感じた。
「馬鹿なドラゴンが、人間の戦士にルティナ姫を奪還されたと聞いてね。改めてさらおうと、部下を引き連れてディヨルド王宮に向かっていたら――ははは、なんとこの宿に姫様と、その戦士がいるというじゃないか。そこでこうして、ご挨拶に訪れた……というわけだよ」
「なるほど、そういうわけか。……もっともご挨拶といっても、よろしくって握手したいわけじゃなさそうだがな」
「無論。……われわれ魔族と人間が出くわしたとき、する挨拶といえばひとつだろう?」
ジャスティアは、右手を高々と掲げて――
「『死の騎士団』よ! この男を討ち取れ!!」
さっと、下ろす。
と同時に、やつの周囲で徘徊していたガイコツたちが、いっせいに俺に襲いかかってくる!
「多勢に無勢――ではあるが」
俺は前かがみになり、背中に背負った鞘から、
「退くわけにはいかねぇ!!」
魔刀工の剣を引き抜くと、そのまま縦横無尽。
上下左右に剣閃を走らせ、ガイコツどもを切り刻み打ち砕き、こっぱみじんにしていった。
時間にして、10秒も経たなかっただろう。ジャスティアが引き連れてきたガイコツども――『死の騎士団』とやらは、俺によってあっさりと全滅してしまったのだ。
……うむ。
さすが魔刀工ヴィルアスの剣。
切れ味、破壊力、使い心地、すべてにおいて抜群だ。大したもんだぜ。
というわけで俺は、剣を下げ、ジャスティアのほうへと向き直る。
「見ての通りだ、大将。お前さんの自慢の部下はあっという間にこの通りだよ。さっさと引き下がったほうがいいんじゃねえか?」
「……なるほど。さすがだね。ドラゴンを倒しただけのことはあるようだ。ええと――」
「エルド。魔法戦士エルドだ」
「エルド。敬意を表して名前で呼ぼう。人間の戦士エルドよ。僕の部下たちを一瞬で蹴散らしたその手腕と実力は大したものだ。……しかしひとつ、残念な事実がある」
「残念な事実?」
「そう」
ジャスティアは、パチン、と指を鳴らした。
すると――な、なんだ!?
がちゃがちゃ、がちゃがちゃがちゃ……!!
俺が倒したバラバラのガイコツたちが急に結集して、もとのガイコツになってしまった!
「復活した、だと!?」
「ハハハ……そういうことだ、エルド! 我が部下は不死身なのだよ! 何度壊しても何度殺しても、決して死なない、アンテッドたちなのだ! 『死の騎士団』をなめるなよ! ハハハハハ……!!」
「殺しても殺しても……死なない……アンテッド……?」
そのセリフを聞いて、俺は片眉を上げた。
不死身のガイコツども。死の騎士団。殺しても決して死なない敵。なんてことだ。それなら、それなら――
「楽勝じゃねえか!!」
「……ハ?」
ジャスティアが、馬鹿笑いをやめた。
俺は、はああ、と肩の力を抜いて大きく息を吐く。
「ンだよ、魔王軍の団長とかいうからもっととんでもないモンスターかと思ったら、ただのアンテッドか。緊張して損した」
「な、な、なんだと……。貴様、僕の部下を愚弄するか! ……いいだろう、ならば本気でやってやる! かかれ、者ども!」
ジャスティアが右手を天高く掲げる。
すると、ガイコツたちはいっそう勢いよく俺に飛びかかってきた。
そのまま繰り出される、拳、蹴り、頭突き、体当たり。まともに食らっても、たぶんダメージは受けそうにない単調かつ弱々しい攻撃だが、しかしかわせる攻撃をかわさないのも馬鹿らしいので全部避ける。――と、同時に、
「我が腕より、求めるは聖賢! 『ホーリー』!」
聖属性の攻撃魔法、ホーリーを発動させる。
左手が、青白い光を発する。アンテッド属性のモンスターは確かに不死身だが、聖属性の魔法を食らえば確実に消滅してしまうのだ。
「なるほど、貴様は『ホーリー』を使えたのか! やるな! だが『ホーリー』で倒せるガイコツは一体のみ! 残りのガイコツをどうさばく!?」
ジャスティアが嬉しそうに叫ぶ。
なるほど、やつの言うことはもっともで、『ホーリー』は単体攻撃魔法だから一度に一体のガイコツしか攻撃できない。襲ってくるすべてのガイコツを倒すことはできないだろう。だが、俺は吼えた。
「『ホーリー』だけならな!」
「なに!?」
「いくぞ! スキル【魔法剣】!」
数あるスキルの中で唯一、魔法戦士固有のスキルを発動させる。
左手で魔法を発動させ、右手の剣に魔法の力を注ぎこむスキル【魔法剣】。
こうすることで、剣は魔法の力を帯び、さまざまな特殊効果を得られるのだ。
例えば、炎に弱い敵を相手にしたときには、火の魔法を剣に注ぎ込んで【火の剣】を作り出せば、それは当然、有利に戦える。
そして今回のように、アンテッド属性の敵を相手にしたときには――
俺は『ホーリー』の力を、右手の剣に注ぎ込んだ。
しゅっ、しゅっ、しゅ、ごおおお、と、右手の剣が蒼い光を発する。
ホーリーの力を帯びた魔法剣【聖剣】の誕生だ。そして――
「続けて、戦士スキル! 【螺旋斬り】!!」
全身を回転させながら、俺はガイコツの集団の中に突っ込んでいく!
ざしゅ、ざじゅ、ざしゅざしゅざしゅざしゅ!!
「な、な、な、な、な!?」
ざしゅ、ざじゅ、ざしゅざしゅざしゅざしゅ!!
「あ、ああ、あああ。ぼ、僕の、部下が……ガイコツたちが!」
……ざしゅうっ!!
5秒と経たぬうちに、ガイコツたちは俺の魔法剣により、切り裂かれ砕かれボロボロにされ、今度こそ文字通りの骸となり果てたのである。
「ふう、さすが魔刀工の剣。いい切れ味だぜ」
俺は魔法を帯びさせた我が愛剣を眺めた。
刃こぼれひとつない。たいしたもんだ。
「が、ガイコツが……30体を超えるガイコツが瞬殺……!? ば、バケモノか……!」
ジャスティアは、目を大きく見開いてその場にぺたんと座り込む。
なんでそんなに驚いてるんだ。魔法剣からの螺旋斬りなんて魔法戦士の初歩テクニック。ぜんぜん大したことじゃねえのに。
『ザザザ……エルド……何度も言うが、スキルはその時代には存在せん。魔法剣なんて芸当ができるのは、その時代にはひとりもおらんのじゃ……! そなたのやっておることはとんでもない無双じゃぞ!!』
宝玉がまた雑音を発している。
リプリカ様がなにか言ってるな。いちおう敵と戦ってるんだぞ、こっち。あとでお願いッス、あとで。
「ぐ、ぐぐぐ……」
「さて、ジャスティアっていったな。魔王軍だっけ? こっちは助ける義理もねえ。ここで仕留めさせてもらうぜ」
俺は剣を振りかざし、尻もちをついているジャスティアに向けて近づいていった。
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