第3章 シリーズ内でも貨幣価値ってけっこう変わるもんだからね

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 宿屋に入るとヒゲを生やした親爺さんからそう言われて、俺は「ほい」と10バルク銀貨を3枚、差し出した。  すると親爺さんは、いぶかしげな表情を見せる。 「なんだい、こりゃ。……あんた、これどこの銀貨だい?」 「え? どこって、ディヨルド王国が発行している銀貨――あ」  そこで俺は、はっと気が付いた。  そうか、この銀貨は、俺がガキのころに作られた新しい銀貨だ。  この時代には、まだ登場していない銀貨じゃねえか。 「銀なのは間違いねえようだが、こんなカネ、見たことねえや。ダメだよ、ダメ。旅人さん、あんたちゃんとディヨルド王国の銀貨を持ってきな」  親爺さんが、銀貨を俺に突っ返してくる。  まるでニセ金扱いだ。いや、この時代にはない銀貨を使ったんだから、そりゃこのひとからしたらニセ金だろうけどさ。  しかし困った。そうなると俺は、この時代で通用する金を、1バルクさえ持っていないぞ。 「ルティナ姫。お金、持ってたりする?」 「いえ、わたしは、1バルクも……」  だよね。  親爺さん、このひと、じつはディヨルド王国の姫様なんだ。  って言えばいいのかもしれないが……でもたぶん信じてくれないだろうなあ。  というわけで俺とルティナ姫は、宿を出て、往来にぽつんと佇んでしまう。さて、どうするかな。     
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