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宿屋に入るとヒゲを生やした親爺さんからそう言われて、俺は「ほい」と10バルク銀貨を3枚、差し出した。
すると親爺さんは、いぶかしげな表情を見せる。
「なんだい、こりゃ。……あんた、これどこの銀貨だい?」
「え? どこって、ディヨルド王国が発行している銀貨――あ」
そこで俺は、はっと気が付いた。
そうか、この銀貨は、俺がガキのころに作られた新しい銀貨だ。
この時代には、まだ登場していない銀貨じゃねえか。
「銀なのは間違いねえようだが、こんなカネ、見たことねえや。ダメだよ、ダメ。旅人さん、あんたちゃんとディヨルド王国の銀貨を持ってきな」
親爺さんが、銀貨を俺に突っ返してくる。
まるでニセ金扱いだ。いや、この時代にはない銀貨を使ったんだから、そりゃこのひとからしたらニセ金だろうけどさ。
しかし困った。そうなると俺は、この時代で通用する金を、1バルクさえ持っていないぞ。
「ルティナ姫。お金、持ってたりする?」
「いえ、わたしは、1バルクも……」
だよね。
親爺さん、このひと、じつはディヨルド王国の姫様なんだ。
って言えばいいのかもしれないが……でもたぶん信じてくれないだろうなあ。
というわけで俺とルティナ姫は、宿を出て、往来にぽつんと佇んでしまう。さて、どうするかな。
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