神殺し(ゼロス)

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 行き過ぎる人がなくなり、ゼロスは奥へと向かう。その足取りはもう、慌てていなかった。人の波を越えるのに時間がかかった。もう、ゼロスがやる事は何も残されていないだろう。  一番奥の部屋に入ったゼロスは、当然のように広がる光景に溜息をついた。  五つ、転がった濃紺のローブ。背格好もバラバラなそれは一様に血を吹き上げ、僅かに血煙が立ちそうな状態だ。  その中央に立つ白衣は血に濡れ、美しいまでの赤に染まっている。手にした二本のダガーからは未だにねっとりとした血が滴り落ちている。 「全員ですか?」 「えぇ。遅かったですね、ゼロスくん」 「人が波のようでしたよ」  向けられた視線の冷たい蔑みの光。それは自分に向けられているものではないと分かっていても寒気がする。 「攫われた子は?」  問うと、オーウェンは静かに指を指す。  そこは今二人が立っている場所よりも一段高くなっている。祭壇と、祭壇の前には蓋を開けた棺が一つ。そしてその棺の前に小さな陰が横たわっていた。  そっと、近づいてみる。結果は既に分かっている。生きているならこの騒動で目が覚めないわけがないのだから。  小さな亡骸は、綺麗な服を着せられて眠っているようだった。いや、実際眠ったまま息を引き取ったのだろうから、安らかではあっただろう。もしかしたら、苦痛も最低限だったかもしれない。     
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