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棒を持った濃紺のローブを着た男が――兄ちゃんの頭を殴って、俺の顔に血が散る。倒れ込んだ兄ちゃんを受け止めた俺は、中にほんの僅か熱いものが流れたのが分かった。
「畜生、上物の生け贄が二つとも台無しだ!」
ぐったりと気を失っている兄ちゃんを乱暴に引き離した男が怒鳴る。抜け落ちたそこから、放たれたものがほんの少し流れ出て、それがとても不快に思えた。お漏らしみたいだ。
「まさか男の処女を奪うなんて、頭の回るガキだ」
「どっちにしても穢れた。これでは神にささげられない」
神に捧げる? 穢れた? 生け贄?
過去の俺の中で、色んなものが繋がった。――兄ちゃんは、助けようとしてくれた。生け贄として殺される筈だった俺を、助けてくれた。なのに俺が叫んだから、兄ちゃんは……
「こいつらどうする」
「ここで血を流すわけにはいかない。森で」
「俺がやろう」
そう言って進み出たのは、まだ若い声の男だった。濃紺のローブを纏った男が脇に――兄ちゃんを抱え、もう片方の手を俺に伸ばしてくる。
「いや……やめろ!」
叫んでも非力すぎる。俺はもう片方の脇に抱えられて石造りの牢を出て、更に屋敷を出された。外は肌寒く、とても暗い。
男はズンズンと森の中を進んで、建物もすっかり見えなくなった。それでもまだ男は進んで、どこかも分からないような場所で俺を放り投げ、――兄ちゃんも乱暴に落とした。
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