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「さーて、お楽しみだ。今日は随分上物にありつけたぜ」
「え……?」
男がローブのフードを脱ぐ。そこから現れたのはまだ若い男だった。口元には残酷な笑みが浮かんでいて、細く顔色もいいとは言えない。
それが余計に怖かった。
「まずはお前からか? 綺麗なガキだ。どんな声で泣き叫んでくれるか、今から楽しみだ」
何を言われているのか分からない。けれど体の芯が冷たく震えて体が動かない。へたり込んだまま目を一杯に開いて見上げている俺は、その男の体が突然横に倒れたのを見た。
「ランバート、逃げよう!」
「兄ちゃん!」
頭から血を流したままの兄ちゃんが手を差し伸べる。俺もその手に掴まろうとした。
けれどそれよりも前に、倒された男が兄ちゃんを蹴り飛ばしてしまった。
「いっってぇなクソガキ!」
「やっ……止めてぇぇ!」
倒れた兄ちゃんの元に行った男が兄ちゃんを容赦なく蹴りつける。ボールみたいに地を転がる兄ちゃんの目が、段々虚ろになっていく。口元が、僅かに動いた。「にげろ」と、伝えてくる。
動けない。腰が抜けて、震えて動けない。小さくなって震えているのが精々だ。
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