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動けない重さに押し潰される体が、赤いもので濡れていく。体温を思わせる熱い液体が全身を染めていく。
怖い、気持ち悪い、助けて、誰か!!
空が僅かに明るくなろうとしていた。俺は声が出なくて、事切れた男に押し倒されて空を見上げている。
その耳に、犬の声が聞こえた。
野犬かもしれない。結局俺もここで死ぬんだ。
諦めのような気持ちでいると、一匹の猟犬が俺をみつけて、その頬を舐める。そうして次には吠えるのだ。ここに俺達がいると教えるように。
「なんだ?!」
「おい、人が倒れてるぞ!」
猟銃を構えた数人の男の声が近づいてくる。そうして俺を覗き込んだ人が、男をどかして俺を抱えた。
「おい、これって街で行方不明になってるって騒いでた」
「かもしんねぇ。おい、大丈夫か坊主! もう大丈夫だからな!」
「こっちゃ酷ぇ。おい、大丈夫か!」
側で兄ちゃんを抱き上げる男が声をかけている。右目から血を流し、ぐったりとした兄ちゃんの姿が見える。
優しい亜麻色の髪に、ふんわりした顔。緑色の、優しくて綺麗な目をしていたんだ。
俺が、全部悪い。俺が我が儘を言わなければ、オーウェン兄ちゃんはこんな目に合わなかった。
俺があの時声を我慢できたら、オーウェン兄ちゃんは逃げられたかもしれない。
俺さえいなければ、こんな事にならなかった。
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