闇(ファウスト)

12/19
前へ
/156ページ
次へ
 女の手が少年に触れ、ニッコリと微笑む。その間に男が何かを懐から出したのが分かり、ゼロスは慌てて走り出そうとした。  が、それよりもオーウェンの動きが速かった。  地を蹴った彼の早さは獣のようで、気付いたシスター姿の女が逃げ、男は少年に手を伸ばす。だがそれをオーウェンは許さず、見事な回し蹴りで男の脳天を蹴り飛ばす。スピードと反動もついた蹴りの威力は凄まじく、男は軽く浮いて脇に倒れてそのまま動かなくなった。  怯える少年を確保したゼロスは女が消えた方へと視線を向ける。一人取り逃した。そう思ったが、暫くしてシスター姿のラウルが女を捕まえてゼロス達の所へと戻ってきた。 「ラウル先輩!」 「確保したよ。この格好、潜伏するのに本当にいいね」  ギチリと女の腕を後ろ手に締め上げたまま、ラウルはオーウェンに笑いかける。これがまた、似合っている。  今回警備にあたり、普通の格好をした騎士団員は最低限を出入口に配置した。そしてその倍以上の人をシスターや神父の格好で潜伏させたのだ。  この場に居て違和感がなく、かつ犯人が警戒を怠るだろう服装。彼らが子供達の周囲に常にいる事を条件に、ファウストはこの慰霊祭の開催を許可したとも言える。 「さすがは暗府です。助かりました」 「いえいえ、僕も教会出身なのでこの事件は許せません」     
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

390人が本棚に入れています
本棚に追加