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これ見よがしに残念な表情のオーウェンは、いっそ芝居がかっている。だがゼロスには、オーウェンが嬉しそうに見えた。相手を痛めつけたいというような、そんな空気だった。
「ところで貴方は、司祭ですか?」
「え?」
「そんなわけ、ありませんよね?」
そう言って、オーウェンは男の頭の上で小瓶を傾ける。
これが悪魔を祓う儀式というなら、この小瓶に入っているのは聖水だ。
だが小瓶から落ちたのは真っ赤な液体だった。
「っ! うわぁぁ!」
「!」
ゼロスまでもがこの異常な光景にビクリと身じろぐ。男は頭から顔まで血濡れになって震えている。独特の生臭さが狭い部屋に漂い始めた。
「貴方達の神は自らは血を求めるのに、信者の血を嫌う。貴方達は菜食を求められ、儀式を行う司祭以外は血に触れる事を禁じられる」
淡々とした微笑みは冷え切っていた。青ざめる男の顔を強引に上げさせ、綺麗な顔に残忍さを見せるオーウェンは見た事がなかった。
「おや、口元にも垂れて」
指に触れた血を、まるで口紅を引くように男の唇に塗る。それだけでも男は卒倒しそうなほど震えていた。
「なんて……なんて事を……っ。禊ぎ……禊ぎを!」
「あぁ、これは失礼。足りませんでしたか?」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
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