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更に小瓶の中身をぶちまけたオーウェンは、無邪気にケラケラと笑って部屋の端へと向かう。そしてそこに置いてある桶を手に取ると、男の前にドンと置いた。
「ひぃぃ!」
「っ!!」
異様だ、これは。
桶に入っていたのは血だった。臭いがするとは思っていたが、これだったのか。暗がりで分からなかった。
「お前達に聖水なんてものはいらない。穢れた者をお前達の神は嫌う。もしも他の血を一滴でも身に入れれば怒りを買うのでしたね? 地獄に落ちますか?」
「やめっ、やめろ!」
「おや、地獄が怖いのですか? 実に可愛らしい。お前達は他者を殺して、既に地獄に落ちる事が決まっているのに今更何に縋ろうと? お前達の神は本当に、お前達を救うのですかね?」
狂っている。そうとしか言えない。
オーウェンは実に楽しそうな顔をしている。桶にある柄杓を手にして、今にも男にかけそうだ。
これが聖水であるなら何の事はないのだろう。だが実際は血だ。
「お前達の神は今、お前を救わない。必死に唇を噛み、身の清らかさを保とうとしている健気な羊を救わない。それは、何故ですかね?」
「この身に試練をお与えなのだ!」
「ほぉ、試練ですか。では、張り切って貴方達の神に代わって試練を与えなければなりませんね。例えば……貴方の大切な者を今ここに呼んで、惨い責め苦を与えるとか」
「!」
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