闇(ファウスト)

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 流石にこれはゼロスも動いた。そんな事、許されるはずがない。例え犯人の家族であっても、その家族が罪人でなければ責めなど与えてはならない。  だがこの男はやりかねない。とても無邪気な笑みで、平気な顔で。  男は顔色を変えて震えた。目は見開かれ、ワナワナと。 「それが神職にある者の行いか、この外道め! 貴様こそ地獄に落ちろ!」 「えぇ、落ちますよ? それが何か?」  さも当然という様子でキョトンとしたオーウェンを見たゼロスは、ゾクリと震えた。壊れている。今まであまりそうは感じなかった。少しズレているとは思っていたが、それでは説明がつかない。  思えば当然だ。この人は十二歳という年齢でこの世の異様を味わい、右目を失い、ランバートから忘れられた。あまりに平然とそれを語るからもう傷は薄いのだと思っていたが、全然だ。むしろ拗らせ、膿んでいる。  オーウェンは眼鏡を外し、一緒に義眼を外す。落ちくぼむ右目と、手にした義眼。それを見た男は声にならない悲鳴を上げた。 「何を恐れるのです? お前達がやったのですよ? 十二歳の僕の右目を生きたまま抉り出した。僕があの日失ったものはこの目だけじゃない。僕の大事な、小さな友人までも失ったのです。これが、恨まないとでも?」     
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