闇(ファウスト)

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 見開かれる瞳、深まる無邪気な笑みは狂気だった。ズイッと寄ったオーウェンは綺麗な緑色の瞳に男を一杯に映している。故に、恐ろしい。 「この日がどれだけ嬉しいか、分かりますか? 人生の全てをお前達のような害獣を狩る事だけに費やし、その為に知識と武力を磨きに磨いてきた人間を、どう思います? お前達を殺す為なら死後の地獄など恐ろしくもないのです。地獄の悪魔に身を裂かれ、焼かれ、食われようとも僕は笑っていられる自信がありますよ? お前達は同じ覚悟が、できますか?」  もう、結果など見えている。男は完全に飲まれ、萎縮している。抵抗するだけの力を失った人間が、この狂気を前に抗う事はできないだろう。 「どうしますか? お前が正直にものを吐かないのなら、僕は本当にやりますよ。これは神の敵を滅する行為ではない。僕の、個人的な、身勝手な復讐の一端なのです。ようは八つ当たりです。そこに、法はない。僕は神の敵を滅するためと言ってお前の親族、友人までをもここで拷問する事に心を痛めません。それでもお前は、『これは神の与えた試練であり、目の前の犠牲はやむを得ないものだ』と言い切りますか?」  沈黙が痛いほどに周囲の空気を張りつめていく。男は目を見開いたままオーウェンを見て震え、やがて小さく震えながら「森の……」と声を発した。     
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