闇(ファウスト)

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「郊外の、森の中にある古い屋敷の、地下……」  男は小さな声でそう呟く。それを聞いて、オーウェンは体を離して男に背を向けた。  だがゼロスの位置からは見えていた。オーウェンが懐からナイフを取り出すのが。 「オーウェンさん!」  この男を殺すのは止めなければならない。そう思って咄嗟に踏み出したゼロスが、オーウェンがナイフで切ったのは男ではなく自らの指先。その指先を男の口の中に突っ込んだのだ。 「ぎゃぁぁぁぁ!」  悲鳴を上げた男の目がグルンとひっくり返り、ガクンと首が落ちる。それと一緒にジワジワッと股間の辺りにシミが出来た。 「おやおや、肝っ玉の小さい。本当に目に見えない神を信じているなんて」 「なにを……」 「僕の血を一滴ばかし飲ませただけですよ」  彼らの神は血を嫌う。浴びただけでもあの反応だったのだから、それを飲まされたとなれば彼らにとっては毒を飲まされたのとかわらないのかもしれない。 「馬鹿な事です。恐ろしいのは目に見えない神ではなく、現世に生きる人間だというのに」  神に仕える神父であるはずのオーウェンがそれを言うと、妙な寒気が走る。その目は本当に神など恐れていない目をしている。     
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