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そんな気はしている。けれどあまりに事が重いため、知らないフリをしている。ランバートはあくまで親友で、彼の側には心を預けられる相手がいる。ここでゼロスまで根掘り葉掘り聞いては余計に苦しい思いをさせてしまうだろう。
それに、オーウェンのあの様子を見るに随分深い話だ。一人の人間があんなにも闇を抱えているなんて、思ってもみなかった。
その場の片付けを押しつけたボリスがもの凄く嫌そうな顔で「逃げるな卑怯者!」と抗議したが、正直あの空気に耐えられなかったのだ。
信者の男を尋問していた時の狂気は異常だった。あの人の言葉には何一つ嘘がないと思う。発言の全てが本当で、本気だった。
むせ返るような生臭い血と、常軌を逸した発言の本気度、それを語る人の深い闇を思わせる目と心からの笑み。全部が吐きそうだった。
あの場を他の誰でもないボリスに頼んだのは、こういう異常な状況に耐性がありそうだったから。コンラッドではきっと固まって動けなかっただろうし、レイバンでもしんどかっただろう。
「今夜中にカタを付けるなら、俺も出るか」
「いえ、俺が側について頑張ります。第一の先輩を差し置いて恐縮ですが」
「なに、胸を借りておけ。そのかわり、確実にこれで終わりにする。これ以上の犠牲など出してたまるか」
「はい。ファウスト様はどうか、ランバートの側にいつでも行けるようにしておいてください。あいつが一番に頼るのは、絶対に貴方なので」
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