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美しき被害者(ファウスト)
夜明け前の墓地に、それはまるで一つの作品のように存在した。
「これは、また……」
霊廟が並ぶ一角に彼はいた。あつらえた白い衣服を纏い、血のように赤い薔薇を一輪胸の上に抱いた少年はまるで眠っているようだった。
頬には赤みがあり、唇もふっくらとバラ色をして、髪は香油で梳かれていた。
だが、少年の時は止まっている。雪のように白い肌は死化粧をしているだけで熱はない。
そしてその少年を飾るように白い花が周囲を飾り、棺の中を思わせた。ご丁寧に枕までしているのだ。
未明の見回りで神父が見つけたこの遺体を囲み、ファウスト、シウスは異様なものを感じていた。
現在はエリオットが簡単な検死をしている。
「死因は失血死です。腕と、手首とに縄の跡があります。おそらく吊して、踝に穴を開けて血を抜いたのだと思います」
「全身か?」
「ほぼ。死亡後も抜いたのでしょう、その位軽いです。あと、死後に臓器を取っていますね。一つは心臓。そしてもう一つは右目です」
衣服を脱がせ傷を確認し、丁寧に縫合された部分を開いたエリオットが言う。そして、閉じられている目も確認している。確かに閉じた右目だけ落ちくぼんで見える。
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