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野球部やサッカー部のかけ声がよく聞こえるグラウンドに面した一室は、甘い香りで満たされている。
そんな場所に向かって外側の通路から歩く人物が一人。その手にじゃらじゃらと白と黒の石を遊ばせて。
――ガラガラ。
――来た!
聞こえた音に中にいた全員が後ろに誰がいるのか、一瞬で察知してしまうくらいには、その人物がこの場所に来ることは日常茶飯事だった。
「笹本ー。差し入れくれー」
肩までの黒髪を揺らしている少女に後ろの窓から手をだらりと出しながら声をかけるのは、笹本と呼ばれた少女の二つ上の先輩である鬼塚。金髪で目付きが悪い、一見怖い印象を持たれるこの少年は、毎日のようにこの放課後の家庭科室を訪れては笹本に差し入れを求めてくる。
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