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ジュウジュウパチパチと油が跳ねる音に混ざり、女三人のトークが始まった。
どうやら、弥生さんには長年片想い中の男がいるらしい。
「弥生の仕事はさー、基本、現場に直行直帰だっけ?」
ある程度腹の膨れた彩さんは、タバコを咥えて切り出した。
そのタバコに愛華がさり気なく火を着ける。
立て続けに五杯のビールを飲み干した弥生さんは、先に出した豚肉と大根の煮物をつつきながら、同時にタバコも吸っていた。
タバコを吸わない愛華は、あの至近距離で煙を浴びて嫌じゃないのだろうか?
ニコニコと笑う顔に本心は見て取れない。
「そう、依頼現場に直行直帰がメインだから、会社には月に1~2回出社する程度だね。彩、そのカボチャちょっとちょうだい。唐揚げまだこないし、腹減ったわ」
すみませんねぇ。
もう五分待っててください。
「弥生ちゃん、ずっと片想いなのよねぇ、恋する乙女は辛いわぁ。でもね、その切なさがオンナを磨くのよ!」
愛華、オマエは片想いなんかしたコトあんのか?
その相手はハンバーグか?
それともステーキか?
「今日は、そのカレ出社日じゃなかったの?」
プッハーと煙を吐きながら彩さんが身を乗り出すと、弥生さんは溜息をついた。
「それがさ、ヤツも偶然出社日だったんよ。 顔見れて、いっぱい話せて幸せだった。”しゅきーーーー!”って再確認しちゃった。はぁ……出来るコトなら押し倒したかったわ」
ちょっと待て……聞き間違いか?
今、ものすごく真面目な顔で、ものすごく下品なコト言ってなかったか?
「ワカル……手に入らない惚れたオトコ見てると、力づくでなんとかしたろか! って思うよね」
言い切った彩さんもアンニュイな伏せ目で溜息をついた。
オイオイオイ、力づくとか駄目だろ。
同じコト男が言ったら下手すりゃ捕まるよ。
つーか、噂には聞いてたけど、これがガールズトークというヤツか。
男の目を気にせず本音と本音をぶつけ合う試合みたいなモノなんだろう?
しょっぱなからこのレベルは、もはや有刺鉄線デスマッチに近い。
あれ?
ココに男が一人いるんだが……ま、俺はノーカウントなんだろうな。
完成した唐揚げの油を切って、キャベツの千切りとレモンを添えて、恋する下品な女王様の前に置く。
すると、ぱぁっと笑顔になって「サンキュ! 本橋!」とお礼を言ってくれた。
これが俺の仕事なんだから礼なんていいのになと思うけど、彩さんの友達は感覚も彩さん寄りなんだなとちょっと嬉しい。
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