126人が本棚に入れています
本棚に追加
「本橋! 焼酎おかわりっ!」
目も鼻も真っ赤にした弥生さんが、ドンッ! と、空になったグラスをカウンターに置いた。
はいはい、ただいま。
俺は先に、グラスの下に沈む梅干しを取り換えようとしたのだが、すかさず愛華が、それを止めた。
「あっ! ダーリン、梅干しは捨てちゃダメだぞ! 弥生ちゃんの好みはぁ、三杯くらい同じ梅干しで焼酎飲んでぇ、最後に潰して食べるんだからぁ! ねっ?」
と、立てた人差し指をチッチと左右に振りながら両目を瞑る(おそらくウィンクかと思われ)。
でもって誰が”ダーリン”だ。
「や、ちょ、愛華、マジ天使! ちゃんとアタシの好み覚えてくれてるーっ! しばらく来てなかったのに! もー大好きっ! 愛華、何でも好きなモノ飲んでよ! 本橋も!」
さっきまで泣いていた弥生さんは、愛華が好みを覚えてくれてると上機嫌だ。
その勢いで俺にまで酒を奢ってくれると言う。
「うわぁ、ありがとぉ! 嬉しい! じゃぁねぇ……愛華、焼酎のお茶割りがいいな! 本橋さんはぁ?」
狭いカウンターの内側で、ズィっと俺に迫りながら聞いてくる。
だからさ、なんで毎回、間合いを詰めるんだよ。
普通に聞けよ、頼むから。
「……えっと、俺は、」
どうすっか。
本当は好きな酒があるけど、愛華も弥生さんも焼酎だ。
ここは空気を読んで合わせるか。
焼酎、あんまり好きじゃないんだけどな。
お客に奢ってもらうのに、自分の好みばっかり優先させるのもなぁ。
「なんだ、本橋。遠慮してんのか? 何でも好きなの飲めよ」
焼酎をグイグイ煽る弥生さんが、カウンター越し俺を覗き込んでくる。
うー、ま、いっか。
焼酎飲んどこ。
この店に入ってまだ間もない新参者だ。
最初はお客に合した方が無難だろ。
最初のコメントを投稿しよう!