小料理屋ラブフラワー開店

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「本橋! 焼酎おかわりっ!」 目も鼻も真っ赤にした弥生さんが、ドンッ! と、空になったグラスをカウンターに置いた。 はいはい、ただいま。 俺は先に、グラスの下に沈む梅干しを取り換えようとしたのだが、すかさず愛華が、それを止めた。 「あっ! ダーリン、梅干しは捨てちゃダメだぞ! 弥生ちゃんの好みはぁ、三杯くらい同じ梅干しで焼酎飲んでぇ、最後に潰して食べるんだからぁ! ねっ?」 と、立てた人差し指をチッチと左右に振りながら両目を瞑る(おそらくウィンクかと思われ)。 でもって誰が”ダーリン”だ。 「や、ちょ、愛華、マジ天使! ちゃんとアタシの好み覚えてくれてるーっ! しばらく来てなかったのに! もー大好きっ! 愛華、何でも好きなモノ飲んでよ! 本橋も!」 さっきまで泣いていた弥生さんは、愛華が好みを覚えてくれてると上機嫌だ。 その勢いで俺にまで酒を奢ってくれると言う。 「うわぁ、ありがとぉ! 嬉しい! じゃぁねぇ……愛華、焼酎のお茶割りがいいな! 本橋さんはぁ?」 狭いカウンターの内側で、ズィっと俺に迫りながら聞いてくる。 だからさ、なんで毎回、間合いを詰めるんだよ。 普通に聞けよ、頼むから。 「……えっと、俺は、」 どうすっか。 本当は好きな酒があるけど、愛華も弥生さんも焼酎だ。 ここは空気を読んで合わせるか。 焼酎、あんまり好きじゃないんだけどな。 お客に奢ってもらうのに、自分の好みばっかり優先させるのもなぁ。 「なんだ、本橋。遠慮してんのか? 何でも好きなの飲めよ」 焼酎をグイグイ煽る弥生さんが、カウンター越し俺を覗き込んでくる。 うー、ま、いっか。 焼酎飲んどこ。 この店に入ってまだ間もない新参者だ。 最初はお客に合した方が無難だろ。
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