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「どもです……じゃあ俺も焼酎を頂きま、」
ドンッ! ドンドンッ!
言いかけた俺に、またも間合いを詰めた愛華が、カウンターの上に二本のビンとグラスを置いた。
あ……これ。
「なんだぁ? ウォッカか?」
細い身体を乗り出した弥生さんが、ウォッカのビンを指でつつく。
隣の彩さんも、もう一本の、グレープフルーツジュースのビンを手に取り「果汁100%じゃん」とラベルに書いてある事をそのまま言った。
そして愛華は観音開きの冷蔵庫から、レモンを一つ取り出すと、三日月型にささっと切って、グラスの縁を果汁で濡らしてから塩をつけた。
続けてクラッシュアイスと、ウォッカとグレープフルーツジュースをそそぎ……
「はい! 本橋さんが一番好きなお酒、ソルティドッグだぞ♪ 今回特別、愛華の愛情がぁ、たぁっぷり入ってまぁす!」
カウンターの内側で、クネクネ身をよじらせる愛華は、額に大量の汗を浮かべ、ほっぺを真っ赤にさせている。
肌だけは無駄に綺麗な愛華、美肌の秘訣は自前の脂のせいかもしれない。
……
…………つーかさ。
今の俺はお客じゃねぇよ、この店の厨房だ。
愛華の客だったのは随分と昔の話。
”小料理屋・ラブフラワー”じゃなくて小さなスナックで知り合ったんだ。
あの頃のおまえは、今より ず っ と 痩 せ て い て、人気のホステスだったよな。
____本橋さんって、ソルティドッグが好きなんだぁ、
____愛華、覚えるからねぇ、
____本橋さんが好きなモノ、ぜんぶ知りたいの、
5年も前の話、まだ覚えてたのか。
あの頃も金なんか無かったから、しょっちゅう通ってた訳でもないのに。
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