小料理屋ラブフラワー開店

9/14
前へ
/73ページ
次へ
「どもです……じゃあ俺も焼酎を頂きま、」 ドンッ! ドンドンッ! 言いかけた俺に、またも間合いを詰めた愛華が、カウンターの上に二本のビンとグラスを置いた。 あ……これ。 「なんだぁ? ウォッカか?」 細い身体を乗り出した弥生さんが、ウォッカのビンを指でつつく。 隣の彩さんも、もう一本の、グレープフルーツジュースのビンを手に取り「果汁100%じゃん」とラベルに書いてある事をそのまま言った。 そして愛華は観音開きの冷蔵庫から、レモンを一つ取り出すと、三日月型にささっと切って、グラスの縁を果汁で濡らしてから塩をつけた。 続けてクラッシュアイスと、ウォッカとグレープフルーツジュースをそそぎ…… 「はい! 本橋さんが一番好きなお酒、ソルティドッグだぞ♪ 今回特別、愛華の愛情がぁ、たぁっぷり入ってまぁす!」 カウンターの内側で、クネクネ身をよじらせる愛華は、額に大量の汗を浮かべ、ほっぺを真っ赤にさせている。 肌だけは無駄に綺麗な愛華、美肌の秘訣は自前の脂のせいかもしれない。 …… …………つーかさ。 今の俺はお客じゃねぇよ、この店の厨房だ。 愛華の客だったのは随分と昔の話。 ”小料理屋・ラブフラワー”じゃなくて小さなスナックで知り合ったんだ。 あの頃のおまえは、今より ず っ と 痩 せ て い て、人気のホステスだったよな。 ____本橋さんって、ソルティドッグが好きなんだぁ、 ____愛華、覚えるからねぇ、 ____本橋さんが好きなモノ、ぜんぶ知りたいの、 5年も前の話、まだ覚えてたのか。 あの頃も金なんか無かったから、しょっちゅう通ってた訳でもないのに。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加