小料理屋ラブフラワー休日

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◆ ピピピピピ……ピピピピピ…… 「うぁ……朝か……」 午前10時。 アラームで目を覚ます。 軟弱な電子音はいまだ使い続けてるガラケーが奏でてて、……って、奏でるなんてイイモンじゃねぇか。 長年使っているせいか、スピーカーには埃やらゴミやらが溜まっているんだろう、心なしか音が割れている。 だがしかし、まだまだ使う予定だから、音質なんて気にしてられるかって話だよ。 なんたって金がねぇ。 今時のスマホは高いからな、贅沢なんて言えねぇよ。 目は覚めたものの、俺は布団から出る事もせずダラダラしていた。 今日はラブフラワーの定休日。 特に予定もない俺は、急いで起きる必要がない訳で、ダラダラしたって問題無しだ。 布団から出ないまま、とりあえずテレビをつけた。 平日の午前中、奥様達が喜びそうな情報番組をなんとなく流し見する。 なになに? 今日の特集は『嫁vs姑』か、サブタイトルは『姑ムカツク!腹いせに庭にミントを撒いてやる!』だ。 あー、うん。 ミントってすっげー生えるんだよな。 種をばら撒きゃ、採っても採ってもエンドレスで生えてくる。 そうなりゃもはやミントじゃねぇ、じゃまな雑草と同じだ。 ヒデェな……そんなんされたら、刈り取る作業で腰をやられる。 年寄りなら尚更で、湿布を貼りつつ泣きながら庭仕事となるだろう。 ああ恐ろしい恐ろしい、俺は絶対結婚なんかしねぇからな。 嫁と姑の板挟みなんてゴメンだよ、……と思った所で、ふと愛華の顔がオートで浮かぶ。 って、オイ! なんで愛華が浮かぶんだ! 愛華は俺の雇い主、ビジネスライクな関係だ。 付き合ってもいねぇしよ、恋愛感情も当然ない。 愛華(アイツ)と結婚なんてありえねぇ。 「俺、疲れてんのかな、」 呟けば、自分の声にはたっぷりの疲労が沁み込んでいた。 昨日は店、忙しかったからな。 宴会の団体客が入ったもんで、厨房の俺は目の回る思いだった。 つったって、愛華の方がもっと大変か。 料理を運んで、客と話もしてたしよ。 その客だって前半はシラフだけども後半は酔いどれだ。 同じコト何度も言うし、中には絡むヤツもいる。 それでも、愛華は誰一人トラブルを起こす事なく華麗に見事にさばいていたが。 つか、愛華に小料理屋って天職だな。 1度話せば客の顔も名前も職業も、それどころか会話の中身も一発覚えで忘れねぇ。 そういうのスッゲェ(つえ)え武器だよな。 俺、そういうの苦手だ。 客の顔とか名前とか、まったく覚えられねぇからよ。 あ、でもな、弥生さんと彩さんだけは覚えてる。 あれだけ美人の2人組なら、さすがの俺も忘れねぇ。 弥生さんも彩さんも綺麗だよなぁ……愛華も昔は美人だったのに……なんであんなに変わっちまったんだろ? ま、性格は変わってねぇけど。
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