小料理屋ラブフラワー休日

5/14
前へ
/73ページ
次へ
当時の愛華はカウンターバーのホステスで、店が終わるのは深夜2時。 それから店の掃除があって、着替えて、送りのタクシー乗り込んで、アパートに着くのは大体3時過ぎなんだ。 愛華は毎日メールをくれた。 ____お店終わったぁ! ____アパート着いたよぉ! ____これからシャワーを浴びたら寝まぁす! ____本橋さん愛してる、 ____早く一緒に住みたいよぉ、 メールが来るたび着信音で目が覚めて、そして俺は寝ぼけまなこでそれを読むんだ。 幸せだった。 愛華のメール、愛華の気持ち、そういうのが嬉しくてたまらなかった。 ガラケーの小さな画面の文字を追い「俺も愛してる」そう呟いて二度寝する。 見るのはもちろん愛華の夢だ。 明日は会えるかな、早く会いたいな。 愛しい愛華、優しい愛華、俺を好きになってくれた愛華、これからの人生を共にする愛華……愛華は俺の全てだ。 愛華がいれば何でも出来る気がするよ。 仕事、今以上に頑張ろう。 それと、酒とタバコはもうやめよう。 子供を10人こさえるんだ。 10人いたら金がかかる。 だからたくさん働いて、子供達と愛華と、それから愛華の妹も、みんなまとめて俺が面倒見るんだ。 だからやめる、酒とタバコをやめてその分は貯金しよう。 将来の為に、家族の為に、愛華の為に。 愛華と出逢って ”人生で初めて” ってコトが増えた気がする。 初めてこんなにやる気になった。 前向きに未来を見る、こんなの初めてだ。 愛華、愛してる。 今すぐにでも逢いたいよ、今すぐにでも抱きたいよ。 だけどガマンだ、今は眠って明日は仕事を頑張ろう。 …………クソッ、 あの頃俺は本気でそう思ってた。 だけど、ある日突然、愛華からのメールが止まった。 メールだけじゃない、携帯も繋がらず音信不通になってしまった。 何かあったのかと心配でアパートを訪ねてみたら、そこはもぬけの殻になっていた。 愛華は忽然と姿を消したのだ。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加