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あの頃……俺は狂ったように愛華を探した。
だが手掛かりはほぼ無くて、唯一、頼み綱の夜の店。
カウンターバーを訪ねてみたけど、古びたドアは閉ざされて、“閉店しました” と張り紙があるだけだった。
途方に暮れた。
アパートはもぬけの殻、勤め先の店は閉店、携帯は呼び出し音は鳴るけど繋がらず、どこを探せば愛華がいるのか皆目見当もつかない。
ただ闇雲に街を彷徨い歩いたけれど、見つける事は出来なかった。
毎日毎晩探し回って、慢性的な寝不足だから、仕事に行ってもミスばかり。
当時俺は営業で、見積書の計算間違い、新規顧客の名刺を失くし、挙句の果てには朝起きられなくて客とのアポを飛ばしてしまった。
目覚ましにも気が付かず、深く寝入って愛華の夢を見てたんだ。
夕方頃に目が覚めて、それが夢だと分かった時、俺は声を上げて泣いた。
寂しくて辛くって、せめてもの慰めに、愛華のメールを読み返そうと携帯を開いたら、会社からの着信件数が二桁後半で表示されていた。
それを見た時、俺の中で糸が切れたんだ。
なにもかもが面倒になった。
仕事も、愛華も、自分自身も、そのすべてがどうでもよくなり、俺は次の日、会社を辞めた。
あーあー、こうやって思い出すと愛華はロクな女じゃねぇな。
勝手に惚れてグイグイ押して、愛華にあんなに惚れさせといて、勝手にいなくなったんだから。
散々振り回しやがって。
いくらかけても携帯は繋がらねぇ、そのくせ呼び出し音は鳴るんだ。
解約されてりゃ諦めもつくだろうが、出ないだけで辛うじて繋がってるから、スッパリ諦める事も出来ねぇ。
まったくとんでもねぇ女だ、……とはいえ、繋がってたから今があるんだけどな。
社員でやってた営業を辞めて、食う為だけに転々とバイトをしてた。
最後にいたのは工場だけど、派遣切りでクビになって、寮からも追い出され、金も無ぇ、住む所も無ぇ、……切羽詰まったあの夜、5年ぶりに愛華にメールしたんだ。
ヤケになった勢いで、写真添付の脅迫状だ。
返事がくるか来ないかは、8:2くらいに思ってた……が、返事が来たんだよな。
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