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リビングに入るとテーブルの上には、朝からボリュームの麻婆豆腐丼が、ぷりぷり盛り付けられていた。
「相変わらずスゲェ量だな」
「愛華ぁ、本橋さんにはぁ、いーっぱい食べてほしいの! だってぇ、ちょっと痩せすぎっていうかぁ、心配なんだもん!」
ははは、出た。
いつもの会話だ。
決して俺は痩せてはいない、普通体型だ。
なのに愛華は痩せすぎだと騒ぐんだ。
ま、そりゃ愛華に比べたらな、そうかもしれねぇけどよ。
「痩せてねぇよ、心配すんな」
「そ、そうかなぁ! でもさぁ、いっぱい食べさせてもぜんぜん太らないから!」
「なんだそりゃ、太らせたいのか?」
「そういう訳じゃないけどぉ……愛華、本橋さんがお腹すいてるの、ヤなんだ」
あぁ……もしかして、愛華を呼び出した日のコト思い出してんのかな。
あの日の俺は、金が無くてメシが食えずにフラフラだった。
そんな俺に愛華は黙って、たらふく食わせてくれたんだ。
あの時のメシ……うまかった。
愛華のメシなら何でもうまいけど、それでもあれは特別だった。
ニコニコ笑って、金もいらない、食べさせたいだけだって、そう言ってくれたんだよな。
あのメシで腹が一杯になった途端、脅迫なんてやめようと黒い感情が萎んでさ、俺は犯罪者にならずにすんだんだ。
ぜんぶ……愛華のおかげだ。
なぁ愛華、おまえ、この5年間どこで何をしてたんだ?
どうして突然消えたんだ?
俺はおまえを探して探して、探しまくった。
だけど見つからないし、どんなに電話をしても出なかった。
なのに……俺の脅迫メールにはすぐに返事をくれたんだ。
なぁ、愛華。
俺はそれに最近気づいた。
気づいちまったんだ。
……ン、……リン、…………ダーリ、
「ダーリン! 聞いてる? なんかボーッとしてたぞ。もしかしてぇ、体調が悪いとかぁ? 大変! すぐに病院行かなくちゃ!」
ヤベ、考え込んでしまった。
愛華が騒いでる、額にスッゲ汗浮かべて、泣きそうな顔してやがる。
チッ、大袈裟だなぁ。
ダイジョウブ、心配すんな。
体調は絶好調だ。
たっぷり寝たし、なんたって、ココに来てから愛華のメシをずっと食ってるんだ。
栄養バランスが良いからな、昔に比べてすっかり健康だ。
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