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 ハッとなって窓の外を見た。  東の地平線から藍の帳を紫に染めながら今日も朝陽が昇る。退廃の終末に至るこの時代も、人間が人間であった太古と等しく日はまたのぼりくりかえす。  鷹揚としたその登壇の足取りに私は忌々しく歯噛みした。不味い、時間切れだ。私は慌てて夜通しの書き物を端末に保存した。まだまだ完成は遠く、その目途すら立っていない。なにせ圧倒的に時間が足りない。仕事を終えて帰宅して、翌朝出社するまでの八時間。その余暇のみが私の住処となっている。本来は睡眠に回すべきその時間を私は制作時間に充てている。 「何故こんなことになってしまったのか……」  途方に暮れる間もなく意識が遠のいていった。『私』の時間が終る。私が社会の構成員としての責務が始まる。  そこで意識が途絶えた。  次に気が付いたのは十五時間後だった。  意識が戻ってすぐに時計で確認したから間違いない。私の主観時間では一秒とて経っていないが時間の重さが鈍い倦怠感となって総身にのしかかかっている。  巨大な真綿に押しつぶされるような眠気が込み上げてきて、気を抜くと意識を失いそうだがそうはいかない。  私には使命がある。     
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