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少年は大きな切り株に登り、その中心に木片を置きました
国王はいつのまにか茶色の髪の男に手を出さないように手で制されています
一歩、二歩と下がったまま切り株を見つめ続けます
す……と何かが変わったような気がしました
今までとは何かが違うような…でもそれが何なのかわかりません
切り株から目を離して後ろを見ます
何が起きるのかとじっと見ている中で、少年の何かを確信したような目をしていました
その瞬間、ごうと吹き荒れる魔素を含む風に切り株の方へと目を戻しました
…一体、何が置きているのでしょうか
切り株から何本もの枝が伸びて、一本の大きな幹へとなっていきます
日の光を遮るほどの枝、葉が伸びて、やがて薄青の半透明の花を咲かせました
花弁がひらりひらりと舞い落ちていきます
白い花畑の上からかすかに溢れる日の光をすり抜けて落ちていく光景は、今までに見たこともないようなものでした
上から霧のような何かが集まって、私の前へと
そして二つに分かれたかと思うと霧は二人の姿となりました
動物の角を生やした男の姿、動物の耳を生やした女の姿を持つ二人を私は驚いたような顔で見つめていたのでしょう
二人は同じようにあたりを見回してから口を開きました
「「ありがとう、哀れな騎士と魔術師よ……わたしはまた、見守ることが出来る」」
実体を得ているというのに何故か、私と同じような気配が漂っています
二人が口にした言葉もまるでひとりが話しているかのようでした
「……何者だ、一体、これは」
「「我が名はフリジ=メノヴァ。神へと至った精霊の成れの果て。約束は交わせられた。わたしはここでこの森を見守ろう」」
彼からは私と同じなにかを感じました
私の方へと歩いてくるその体は実体を持ったものでした
「メノヴァは他の界からここへ投げ込まれた。その木は神が作った器。死に行った精霊が残した体だ。俺も、ギアナもメノヴァと同じ」
手で国王を制していた男が話します
同じ…というのはどういうことなのでしょうか
私のほうへと伸ばした手は実体があるというのに触れることが出来ました
私の持つ白とは対称的な、色を持つ手でした
「わたしはあなたの場所に来たのに、あなたは何も言わない」
「あなたの心は、とても美しかった。この樹に眠る記憶も全てが愛おしい」
「わたしには、依代が必要。だけれどもわたしの器は愛し森にあった。この身体のみで来てしまった」
「だから……」
いつの間にか、国王と二人の姿はありません
私は彼らの前に立って、ずっと考えていました
この大樹は、私が産まれる前からこうなることが決まっていたのではないかと
それならば、記憶の中にある大樹とは違えども…私の愛した箱庭と一緒ならば
「きっと、楽しくなる」
私は二人に、記憶の中にあるような笑顔を向けたのでした
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