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2.陛下と民衆
さて、ウチの陛下も暮らす首都サクリーナ城とは、帝国が建国された当初から存在し、築150年を優に越える建造物だ。もう文化遺産と認定されても良いかもしれないが、色々とボロが出てきているので修理を終えない事には迂闊に登録出来ないらしい。その形は本当に、ゲームでいう王様の城〈castle〉である。いわゆる煉瓦よりも平べったい煉瓦が凸凹と連なり、年月を経ていよいよ黄鉄鉱の色を見せ始めた姿と、東西南北に配置された庭が特徴だ。
そのサクリーナ城南側のバルコニーには、テーブルセットとミニ三脚に乗ったカメラが置いてあった。これは365日稼働しており、帝国メガロポリス第五代政府サクリーナ城管理課のホームページで視聴およびコメント可能だ。
「城の壁も良いが、やはり庭が良かろう。」
カメラが向いている方向は最後にバルコニーにやって来た人次第なので、大体城の中や壁、南の庭が映っている。ちなみに、サクリーナ城の壁は煉瓦造りの予定だったが、時代は独立戦争の直後、肝心の煉瓦が全く足りなかったので某建築スキーがコンクリとモルタルでソレっぽく作ったらしいという噂だ。そこまで記録が残っていなかったので、仕方ない。
「今日も我の様子が気になって仕方がなかった諸君、待たせたな。」
…急に画面が白くなった様に思うかもしれないが、これが第五代皇帝ガルバディアである。
たぶん、この国で一番偉い人である。
「ん?」
なお、件のホームページには下記の注意事項が書かれているので、よく読んでおこう。
《12~13時の視聴:“白銀の皇帝”は全体的に白く、陛下が出てくる日は大概晴れています(趣味統計444)。明度と音量を下げてから御視聴下さい》
テレビの前のよい子に向けて書く事と同じだが、注意事項を中々守れないのも、何か有ると直ぐSNSで発信しまうのも帝国民である。民の暴走を防ぐ事もまた国の仕事の様だ。これについては毎日毎秒、帝国軍管理部と通信部情報課が頭の痛い思いをしている。
「南の庭にカメラを向けたが、諸君に見えているだろうか。」
陛下は眼に見て分かる程にこにこしながら、カメラを動かした。今日は御機嫌の様だ。
《こんにちは、陛下》
《こんにちわんこそば! 見えてますよ》
《異常なし》
《陛下やっぱり眩しいっす》
《こら!!》
《おいそれは》
《壁┃_ _)⊃ 確殺フラグ》
「それは、どうしようもないな…」
《陛下どこ?》
《画面外なう》
「えぇ、我も見たい??えーと…此処でよいか?」
陛下はいそいそと椅子を動かし、南の庭と自分が見える様にカメラを置いた。
《みえました》
《ありがとうございます!》
「何故だろう面映ゆいな…」
サクリーナ城の庭は4つ存在するが、最も人氣なのは、南の庭であった。南の庭には梅、桃、桜、藤、金木犀――…数多の花木があり、四季の廻りを教えてくれる貴重な場所だ。ちなみに、生育温度は電熱線で確保するそうだ。
《入場料取って良いと思う》
「ん?それは、国民にとって不利な事ではないのか?」
《ネストグラマーがスツェルニー植物園の苔庭潰したマジ辛い》
「なんと…」
南の庭は平日13~17時まで入場無料(要入場許可証)だが、
「風情を知らぬ者共が…」
《アーッ!!陛下、おさえておさえて!》
「むう…」
による文化物荒らしが確認されている今、入場料をとる文化物も出てくるだろう。この南の庭も例外ではない。金欠に悩まされている人は、今の内に見に行っておこう。
《誰かスツェルニー行って取り押さえれ!》
《オッケー、やっちゃるけん!》
《視聴者にリアルおまわりさんがいた、これは勝つる!》
「良かろう…ミツキさん、委せたぞ。」
《ラジャー!》
ところでネストグラマーとは、写真主体のSNS“ネストグラム”愛用者の事だが、彼等全員が犯罪や器物破損をしている訳では無い事を此処に記す。
《陛下、この花何ですか》
「桃の花だ。実が成らぬのは残念だが、香りは良いぞ。」
《花桃っすか》
《陛下そういえば桃スキーだった》
「そうだが?」
陛下は視聴者のコメントに嬉しそうに応じ、その直後、机に頭を打つ程度に落ち込んだ。
「我の印璽も、桃の花を模したものだったのだ…」
ガーン
「文箱共々無くしたのは失態だった…」
《インジ?》
「ああ。署名欄にサインの代わりとして捺したり、
蝋と一緒に使って、シールの代わりに手紙を閉じる物だ…」
《それって、取っ手の付いた金属の判子みたいなヤツですか?》
「…“みたいな”処かそれその物なのだが。」
《ウチそれデザインしたかも。ウチの会社再現開発で盛り上がってて、
花弁が花から落ちてる様に見せたくて超頑張った》
《あ、昨日彫ったのソレかも。
500ルブレ硬貨みたいな円に花1個と花弁4枚彫った。》
「え…ええーっ?!」
おっと時間です。
陛下のお喋りコーナーは、この調子で毎日12時から13時まで生放送中。暇ならコメントして陛下とお話してみよう!
※諸事情により、断りなく中断・休止する事があります。
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