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3.陛下と文房具(緊急要請その後)
さて、彼の徹夜残業決行後の、或る内勤日のこと。
「陛下から支給品だ。」
『はい?』「ふにー…?」
溢れんばかりの仕事でミッション・インポッ●ブル・タイムなどとっくに忘れた3人は、突然の様に届いた“紙”に驚いた。
薄茶色の蔭りを身につけた封筒は、厚みがあるからか、桜のような花1つと、落ちていく花弁4枚が並ぶ蝋のボタンで留められている。赤色の蝋は、花の部分に光を当てるとプリズムの様に煌めいた。
裏返すと、左上には絵の描かれた小さな紙が貼られており、中央には流れる様な文字が書かれていた。上から切手、宛名、差出人の様だ。ちなみに、帝国における切手とは、トレジャーハンター共が探し回っている美術品であった。
「これが“手紙”…ですか?」
「そうだ。後は自分で確かめろ。」
通信部長官は凝りに凝った手紙を新人共に渡し、マイデスクへと戻っていった。
「ん?」
「なんか臭うんだけど…」
「開けてみましょう。」
手紙は開けずとも微かに香っている。
嗅ぎ慣れないニオイに違和感を感じながら、3人は慎重に手紙を開けた。
封筒の中身は便箋一枚と、少々立体感のある小さな折り紙。帝国の若者には“振るとカラカラ音がする、三角がいっぱいの四角くくて平べったい、なんだか豪華な色の箱”としか思えないが、これが文香だ。
「これが文香でしょうか。」
「わー!」
どうやら中身――便箋という言葉を彼女達は知らない――が取り出せなかったらしい。
ユリが封筒を逆さにしてみると、緩く折り畳まれた紙3枚と、桃色の花弁がはらはらと落ちてきた。
「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち!」
「何の花でしょう?」
「ハナモモだろう、ちょうど見頃だからな。」
落ちた紙を拾ってみると、無地の紙と紙で出来た容れ物、そして
「さんかくとまるがいっぱい…」
「植物の葉を敷き詰めた柄だ。
こういう模様には名前と意味が…あったのだが忘れた。」
「がくっ!」
白っぽい模様が敷き詰められた薄茶色の紙には、縦横一ミリのずれも無く文字達が整列している。
ユリはふと、会議室に飾られた“高度な落書き”を思い出した。
透明なアクリル板をはめ込んだ、ぬめる質感さえ感じる木の直方体。その中に入っているのは、茶色い紙に書かれた、横一列に連なる四つの落書き。
あれと、今見ているこの紙はよく似ている。
「ふわー…」
ユリは“高度な落書き”の正体を知り、目の前にある手紙を読んでみた。
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