楽しい週末を!

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昼休み。 返信用ハガキに同窓会欠席の理由を書いていると、背後から声がした。 「行かないんですか?」 続いて、右手のあたりに湯気の立ったコーヒーが登場する。 いつものとおり、杉下だ。 「この歳になるとまわりは家庭持ちだから、話題についていけなくて」 「だからって欠席の理由を『仕事』にしなくても。その日、休みじゃないですか」 「いや、私にとっては重大な任務がね」 「ああ、バイクですか。例の」 と笑って彼女は給湯室へ向かう。 今日もポニーテールが揺れてかわいい。 「リーダー、また杉下さんと話して鼻の下伸ばしてる」 「いい歳したオッサンがねぇ」 向かいの机で、女性社員たちが私をからかっている。 自分らもいい歳したオバサンじゃないか。 パソコンに隠れるように頭を下げていると、杉下が隣の席に戻った。 「リーダー、今度の週末はどちらへキャンプですか?」 「今度は四国かな。徳島に良い場所があるらしい」 こうして気さくに話しかけてくれるのも杉下だけだ。 ついつい調子に乗ってしまう。 「ふだんの憂さを忘れてバイク飛ばして、 自然いっぱいのキャンプ場で飲む一人酒は最高だよ」 「お一人が好きなんですね」 「い、いや別に女の子一人くらいバイクの後ろに乗せてもかまわないんだけどさ」 「じゃあ同窓会に行けば一緒に行く仲間が見つかるかもしれないですよ」 杉下はハンドクリームを手のひらでこすりながらつぶやいた。 「キャンプか。彼氏を誘ってみようかな」 「あ、かれ」 彼氏いたのか。と言いかけて言葉を飲み込み、セクハラを防ぐ。 そうか、彼氏がいたのか。 心のなかでわびしいため息をついてコーヒーを一口。 手の中で折りたたまれた一枚のハガキが、急に重くなる。 小さな文字で書いた、嘘の欠席理由に責められている気がした。 ――こんな自分をお返しするなんて。 大きくバッテンをつける。 そして、出席にマルをつけた。 たまには誰かと飲む酒もおいしいかもしれない。 いつもと違った週末にチャレジするのも悪くないだろう。 帰り道、駅前のポストへ返信ハガキを投函した。 一歩前進。
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