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だけど、蓋を開けてみると、優勝したのは麗子博士のライバルと目されていた三年生の女性だった。そのとき、審査結果に不満を抱いた麗子博士のファンが、数名でステージに駆け上がり、審査員席に詰め寄った。それに続けと言わんばかりに、次から次へとファンがステージへ登っていく。あっという間に審査員席の周りは人で溢れ、混乱状態に陥った。あまりにも多くの人間がステージの上で動くものだから、セットがゆらゆらと揺れ始める。このままだと危険だと判断した僕は、何とかファンの暴走を止めようと、自らステージに登った。そのとき、ついにセットの一部が崩れ、麗子博士に向かって倒れ始める。僕は渾身の力で走り、麗子博士の盾となった。
気がつくと、僕は病院のベッドの上にいた。後頭部の辺りがズキズキと痛む。だけど、僕は自分の体のことより、麗子博士のことの方が心配だった。とにかく、あの後どうなったのか、誰かに訊いてみようと思い、上半身を起こしたとき、病室の扉が静かに開いた。誰だろうと思いながら、視線を扉の方に向けると、麗子博士が入ってくる。麗子博士は上半身を起こした僕を見るなり、
「気がついたの?」
と声をかけてくれる。
「あ、はい。たった今、起きたところです」
「そう。だけど、横になってないとダメだわ。頭を強く打って、脳震盪を起こしたんだから。それに、後頭部を十針くらい縫ってあるんだから」
その言葉に、僕は後頭部に手を当てる。そこには確かに、傷口を覆うためのガーゼが貼り付けてある。
「ところで、麗子さんは大丈夫だったんですか?」
「あなたのお陰で、掠り傷ひとつないわ」
「よかったです。本当に良かったです」
僕の目から、勝手に涙が零れ落ちた。
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