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存在感たっぷりで眼前にそびえているのは、今まさにゴールテープを切ろうとするかのように両手を上にかかげて走るランナーが描かれた、かの有名な看板だった──。
そう。ここは道頓堀川にかかる戎橋の上だ。大阪随一の繁華街だけあって通行人がすごく多い。
だが、南にかかるアーケードの上にのぞいているのは通天閣の頭にある展望台、西に視線を移せば岡本太郎デザインの太陽の塔、東に目を転ずれば大阪城の天守閣、北に見えるのは双子の梅田スカイビル……地理的に見えるはずのないものがすぐ近くに見えていた。大阪のランドマークを無理やりに集めてあるここは、つまり現実の世界ではない。コンピューターのなかに作られた仮想空間なのだ。
先野光介はそこにいた。といっても、先野のアバターである。現実の先野は事務所のパソコンのディスプレイを通してそれを見ている。
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