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 世界が夜に傾きかけた頃、私は家を出た。父様と母様に気づかれないよう足音を、気配を消し止めて。  十六歳の孕んだ背後感を、鼓動の中に残響させながら、畦道を下っていく。喉の奥からせり上がってくる興奮が心地良い。  ーー私は、貴方に逢いたいの。  ある所で、畦道から雑技林に入り込んだ。さらに木々の間を掻き分けていき、こうべを垂れる枝の切れ間から夜が今晩は、と語り掛けるも、貴方に逢いたいが為、構ってられなかった。更に奥へ奥へと吸い込まれるままに向う。ただ向う。  貴方はいた。いつもと同じ場所で。 「待っていたよ」 「逢いたかったです。先生……」  逢いたかった。貴方に少しでも早く逢いたかった。 「こっちにおいで」 「……はい」  誰も居ない湖のほとりで、私は身体をしならせる。冷たい風が肋骨を撫でる。そこへ貴方は薔薇の棘のような気持ち良い痛みを与える。 「あぁ……先生……っ」  無数の星の瞬きを脳に刻みながら、快楽にガクガクと震えた。貴方はそんな私を精巧な人形を扱うように指先で巧みに操り、かと思えば、立て付けの悪いドアを無理矢理押し上げるように強く求める。     
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