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好意的な視線ではない。それは、男の表情から分かった。
「(品定めされてる?俺が?……俺たちが?)」
「珪ちゃん?」
数歩前で立ち止まっている桜蔵が、不思議そうにこちらを見つめていた。
「どうしたの?」
桜蔵を振り返り、答えようと、もう一度男のいる方へ顔を向けると、男はもういなくなっていた。珪は、戸惑いのまま返した。
「……今、見られてたんだけど、いない……」
「えー、珪ちゃんが見られてることに気づくなんて、珍しー。どんな子?」
珪からしてみれば、全く嬉しいものではなかったのだが、桜蔵は、興味津々だ。
「女じゃないぞ?」
「男?!」
桜蔵が目を丸くして、辺りを見回した。
「背は、たぶん、俺と桜蔵の中間くらい?桜蔵の方に近いけど。で、目がクリッとしてるんだけど、お前と違って、暗い感じ」
「どこ?」
「だから、いないって」
それらしい人物がいないことを確認して、桜蔵は、悔しげな声をあげた。
「今度は、すぐに教えてね?!」
「気づいたらな?」
「あ!イチゴー!」
桜蔵の興味は、艶々した赤い輝きが目に入ったとたん、そちらに移った。嬉しそうに駆けていく。
「迷子になりますよー、」
珪が感情を込めずに言うと、桜蔵は、上機嫌に振り返った。
「珪ちゃんを目印にしてるから、大丈夫ー」
「(勝てない……)」
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