ふみのゆ・う・わ・く日和

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ふみのゆ・う・わ・く日和

 眠りに落ちた彼の手をそっと握る。窓からのオレンジ色の夕陽に照らされた彼の横顔を見ていると、罪悪感がひたひたと胸に満ちてくる……。  ジェットコースター乗り場の側そばで、草餅を売っているワゴンを見かけたとき、甘い「誘惑」にあっさり負けて一パック購入した。もちろん彼が作ってきてくれたと聞いた時には、買った草餅はこのまま持ち帰るつもりだった。  彼がヨモギを河原で摘んだと言うまでは……。  その河原は犬の散歩をしている人でいつも一杯で、わんちゃんたちはあちらこちらで気持ちよくシーッとやっているのだ。  のどかな光景には癒やされるし、彼の事も大好きだけど、わんちゃんシーッの河原で摘んだヨモギで作った草餅を食べられるかというと、それは別問題だ。  彼が飲み物を買いに行ってくれた時、私は自分で購入した草餅と、彼が作った草餅を一つだけ入れ替えた。パックごと入れ替えたら、彼も購入した草餅を食べることになり、自分が作った味と違うと気が付くかもしれないからだ。  問題はどうしたら購入した方を間違いなく「私が」食べるられるか? ということだ。  まず自分に近い方に、購入した草餅がくるように置いた。人が食べ物を手に取る時、自分に近い側から選ぶのが普通だからだ。そして完璧を期すために、食事の途中で草餅を食べた。  草餅はデザートだと思っていたせいか、彼がとてもがっかりした顔をしたので、あーんしてごまかした。そうとは知らずに、幸せそうに野原にすわっている彼の周りを、蝶々がたわむれていたっけ……。  それにしても彼は「ジロロ」をすっかり忘れていたみたいだ。  山菜の天ぷらを持って彼が突然訪ねて来た時の事を思い出すと、ふふ、と笑いがもれた。  「ジ」ょうずに揚がった山菜を  「ロ」ーズより天ぷらの君だから(花より団子)  「ロ」ダン(考える人)するより持ってきたよ! ジ、ロ、ロ!  なんて言って、持参したジロローニブランドの塩の瓶をブラブラ揺らして笑わせてくれたのに。  食後、彼だけ具合が悪くなったところを見ると、やはりあのワンちゃん草餅が……。私のせいとは言えないが複雑な気持ちだ。  眠っている彼を見ると、もぐもぐと口を動かしていた。草餅を食べる夢でも見ているのかもしれない。  そうか、今日はジロロ日和じゃなくて、ゆうわく日和だったのかも。  「ゆ」めの中で  「う」きうき  「わ」くわく  「く」さもち日和。  なんといっても夢のなかの草餅は清潔だ。  私は残りの草餅が入っているプラスチックパックをカバンから取り出し、ゴミ箱に押し込んだ。彼の草餅が病気の原因だったことも、私が食べなかった事も秘密だから、証拠隠滅、しておかないとね!        おわり
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