ランチタイムには殺人を

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ランチタイムには殺人を

 ジロロ計画のその四(死)だけは成功させなくては。自動販売機の液晶のボタンを気合を込めて押す。草餅にはお茶だ。  ふみちゃんの待つ野原に戻りながら、計画をもう一度確認する。食後、ふみちゃんに草餅をあーん、する。トリカブトの毒は摂取後、十分から二十分ほどで中毒症状が出始めるらしい。  症状が出始めたら、遊園地内の医務室にふみちゃんを連れて行く。その途中でプラスチックケースはゴミ箱に捨てよう。二時間もすればふみちゃんは……。  充分な設備がない医務室なら、常駐の医師はふみちゃんの死因を「心不全」と診断するはずだ。  単純この上ない計画だが、ひとつだけ難所がある。ふみちゃんが草餅を食べたら、残った一つは、なんとかして地面に落とさなければならないということだ。なぜなら、万が一にも毒入りと毒なしが入れ替わったりしないように、草餅は二つともトリカブト入りだからだ。  野原に近づくと、ふみちゃんが僕を見つけて手を振ってくれた。差し出されたウェットティッシュで手を拭きながら隣に座る。ふみちゃんは看護師という職業柄、衛生にはとても気を配っているのだ。  計画は完璧と思われたが、なんとふみちゃんは食事の途中で草餅を手に取り、自分で食べてしまった。さらにもう一つの誤算は、ふみちゃんが残りのトリカブト草餅をつまみ、「はいっ」と僕の口元に差し出したことだ。ふみちゃんからの初めてのあーん。「誘惑」に負けて、ついパクリとかぶりついてしまった。後でこっそり吐き出そう。  「ねえ、今日はジロロ日和だね」  「えっ?」  驚いて口の中のトリカブト草餅を飲み込んでしまった。思わずふみちゃんの顔を見つめると、指折り数えながら言った。  「ジ」かんを忘れ  「ロ」うどう忘れ  「ロ」マンチックなランチタイムにぴったりな日ってこと!  照れたように笑うふみちゃんの笑顔が眩しかった。
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