12 煙

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 * * *  火葬場の待ち時間は長かった。  史郎は外の空気を吸おうと、待合所を抜け出し、玄関へと向かった。長い廊下の窓から、さんさんと輝く太陽を見上げる。今日も暑い日だった。  玄関の自動ドアの前まで来て、ふと足を止めた。ロータリーに鎮座している大きな花壇の隅に、見覚えのある男の姿があった。  確か、焼香の時にも見た顔だ。大柄な体を縮ませるようにして、花壇の縁に腰掛けてタバコを吸っている。  史郎は自動ドアをくぐり、玄関のひさしの外に出た。冷房の涼しさが消え去り、身にまとう空気が一気にぬるくなる。  花壇の側まで歩み寄ると、その男に声をかけた。 「こんにちは」 「……こんにちは」  男はきょとんとした顔で、史郎を見上げた。 「花月史郎と申します。葉子の夫です。去年、新宿の大学病院でお会いしました。覚えてませんか?」 「ああ、あの時おじさんと一緒にいた――」  その男は日高樹の長男、一正だった。  一正は顔を綻ばせて立ち上がり、会釈をした。 「葉子ちゃんの旦那さんだったのか。いや、大人になってからは、あんまり会ってなかったからなぁ。……葉子ちゃん、大丈夫?」 「ええ、なんとか頑張ってるみたいです」 「そっか。貴方も昨年の父の時には、色々とありがとうございました」 「いえ、僕は何も」 「おじさんには、ずっとお世話になってたから、残念です」 「ええ、本当に」 「寂しいなぁ……祖父も、母も、父も、雨野のおじさんも、みんないなくなってしまって」  そう言うなり、一正の目に急に涙が溢れた。 「あ……はは、すみません」  涙はぽろぽろと、止めどなく溢れてくる。一正は気まずそうな顔をして、それを指で一生懸命払っている。  史郎は咄嗟にハンカチを出そうと、ポケットに手を突っ込んだ。――突っ込みかけて、ふと止めた。  どうしようかと少し悩んでから、史郎は一正の腕を掴んで、花壇に座らせた。そして、その隣に腰掛けると、そっと肩を抱いた。
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