3 再会

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〈日高樹殿  前略 君が元気でいると知り、とても嬉しく筆を取っている。長い間お互いに消息を知らずにいた故、突然のことに驚かせてしまっただろう。どうか許してほしい。  俺は北支那の野戦病院で君と別れてから、満州で終戦を迎え、ソ連軍の捕虜となりシベリアに送られた。復員したのは、昭和二十六年のことだ。六年もの間を生き延びることができたのは、非常に幸運なことであった。  しかし命からがら生家に戻ったものの、空襲で家は焼け落ち、両親は行方不明となっていた。何もかも失った人生を立て直すのには、長い長い時間がかかった。  君はもう立派な一家の大黒柱になっているんだね。今年、俺のところにも娘が生まれた。ようやく俺は平穏な人生を取り戻したのだろうか……と、一息ついてみると、急に君に会いたくて仕方がなくなった。  君に会いたい。無性に。君の事はいつも心の片隅にあった。しかし、君の生死を知るのは、何よりも恐ろしいことだった。  もし君が戦時中の記憶を掘り起こしたく無いのなら、俺は二度と君に会うことはない。だが君が今どうしているか、幸せでいるか、この目で確かめたい。  いつになっても構わない。返事を待っている。 草々    昭和三十二年六月二十八日 雨野正太郎〉
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