7 湖畔

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 * * *  昔二人で泊まった民宿が、まだ同じ場所にあった。  だいぶ古ぼけてはいたが、記憶に残っているそれと、全然変わっていないような気もした。  案内をしたのは、まだ年若い男の店主だった。  確か二階の奥だったはずだ――そう思って店主に聞いてみると、昔泊まった時と同じ部屋が空いていた。  その晩、月明かりの差し込む部屋の真ん中で、雨野は樹を抱きしめた。  二人の影が一本の木のように伸びて、押し入れのふすまに映っていた。そのまま崩れ落ちるように布団の上に身を投げだして、二人の影は山の尾根になった。 「俺、身勝手な男だろう」  樹を抱きかかえて、懺悔するような気持ちで呟いた。樹は息を詰めて、雨野の胸にそっと手を当てて聞いている。 「何かを決断する時、真っ先に考えるのは、いつも自分の都合ばっかりだ」 「……」 「冷たい奴なんだ。家族に対してもそうだし、君のことだって、今も昔も困らせてばかりで」 「……」 「なのに君は、俺を決して責めないんだ。不思議だよ……君は」  樹が視線を上げる。間近でその目と見つめ合う。 「違う、正太郎さんは――」 「樹」 「悪いのは、僕です」  悲しげに沈んだ瞳で、樹は声を震わせて言った。 「……もう、よそう」  雨野は微笑んで、樹の髪を撫でた。その目からこぼれ落ちそうになっている涙を、指でぬぐった。  本当に不思議だった。なぜ惹かれ合ったのか、なぜこんなにも離れがたいのか。運命を呪わしくも思ったが、出会わなければよかったとは、少しも思えないのだ。  樹も雨野の頬を手のひらで包み、目元に指を這わせた。  そして二人は目を閉じて、赤子のように眠った。
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