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手が震えた。視界の文字が滲む。
手紙を胸に抱きしめて、涙をこらえた。
そして雨野は手紙を再び封筒に仕舞い、灰皿の上でライターの火にかざした。
愛の言葉を記した手紙は、誰にも知られぬように、言葉だけ心に留めてその都度焼くことが、いつの間にか二人の習慣になっていた。
白い紙にふわっと赤い炎が移る。
その瞬間、どうしようもない悲しみと虚しさがこみ上げ、雨野はとっさに封筒に燃え移った炎を、手でもみ消した。
手のひらを開く。端が焦げた封筒と、赤くなり水膨れのできた手のひらに、ぽつぽつと涙が落ちる。
雨野は泣いた。静かな嗚咽が、明け方のぼんやりと明るい部屋の中に満ちていった。
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