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「またまたァ。どうしたんですか?」
腕を組み、片手で顎を撫でながら史郎はニヤッと笑った。
「君に頼みたいことがある」
「はい」
「俺の家に仏壇があるよな?」
「ありますね」
「仏壇の下段の引き出しを全部引っこ抜くと、奥にダイヤルが見えるはずだ」
「……へ」
「俺がこれから教える通りに回すと、隠し金庫の扉が開く」
「……」
「そこに戦時中、遺品のつもりで実家に送ったものが仕舞ってある」
「……」
「空襲で家は燃えて両親も死んだが、土の下の隠し倉庫に、それが後生大事に残されてたんだ」
「……」
「戦時のものは全部処分しちまおうと思ったが、両親の遺したものだと思うと踏ん切りがつかなくてな」
いつの間にか史郎は、真面目な表情で雨野の話に聞き入っている。この男を頼る気になったのは、こういうところがあるからかもしれないと、雨野はふと思った。
「なるほど、それを僕に託してくださるんですね?」
史郎は方眉を上げるようにして、雨野の表情を伺う。
雨野は頷いた。
「そうだ。遺される側にしてみりゃ、ガラクタかもわからん。目を通した上で、保存するも処分するも、君の好きにしてくれていい。……それからもう一つ」
「なんですか?」
「ここからが本題なんだ」
史郎の喉がごくりと上下する。
「……なんでしょうか」
「君は、俺の秘密に気付いているんだろ」
射抜くように、真剣な顔で見つめた。
史郎は目を少し見開いて、背筋をピンと伸ばした。それから何かを考えるような仕草をして、にやりと笑った。
「秘密って?」
「……まあ、いいけどよ」
雨野はふてくされたように顔を横に向けた。
あくまで何も知らない振りをするのも、史郎なりの思いやりなのかもしれないと思う。
遠い目をして窓の外を見る。灰色のビル街が見える。
「もう一つ、頼みがあるんだ」
「はい」
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