10 託すもの

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「またまたァ。どうしたんですか?」  腕を組み、片手で顎を撫でながら史郎はニヤッと笑った。 「君に頼みたいことがある」 「はい」 「俺の家に仏壇があるよな?」 「ありますね」 「仏壇の下段の引き出しを全部引っこ抜くと、奥にダイヤルが見えるはずだ」 「……へ」 「俺がこれから教える通りに回すと、隠し金庫の扉が開く」 「……」 「そこに戦時中、遺品のつもりで実家に送ったものが仕舞ってある」 「……」 「空襲で家は燃えて両親も死んだが、土の下の隠し倉庫に、それが後生大事に残されてたんだ」 「……」 「戦時のものは全部処分しちまおうと思ったが、両親の遺したものだと思うと踏ん切りがつかなくてな」  いつの間にか史郎は、真面目な表情で雨野の話に聞き入っている。この男を頼る気になったのは、こういうところがあるからかもしれないと、雨野はふと思った。 「なるほど、それを僕に託してくださるんですね?」  史郎は方眉を上げるようにして、雨野の表情を伺う。  雨野は頷いた。 「そうだ。遺される側にしてみりゃ、ガラクタかもわからん。目を通した上で、保存するも処分するも、君の好きにしてくれていい。……それからもう一つ」 「なんですか?」 「ここからが本題なんだ」  史郎の喉がごくりと上下する。 「……なんでしょうか」 「君は、俺の秘密に気付いているんだろ」  射抜くように、真剣な顔で見つめた。  史郎は目を少し見開いて、背筋をピンと伸ばした。それから何かを考えるような仕草をして、にやりと笑った。 「秘密って?」 「……まあ、いいけどよ」  雨野はふてくされたように顔を横に向けた。  あくまで何も知らない振りをするのも、史郎なりの思いやりなのかもしれないと思う。  遠い目をして窓の外を見る。灰色のビル街が見える。 「もう一つ、頼みがあるんだ」 「はい」
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