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雨野の葬儀が行われたのは、その5日後のことだった。
「それでは皆様、お心残りの無いように最後のご挨拶を……」
出棺の前。葬儀参列者が棺桶に、花や雨野の愛用していた物を入れ始めた。
葉子が花を手向け、雨野の頬に触れてはハンカチで目を押さえている。
その傍らで、史郎は懐から『雨野正太郎様』と書かれた、焦げ跡のついた封筒を取り出し、雨野の手元に置いた。
「何? それ……」
目元を赤くした葉子が尋ねる。
「お義父さんから預かってたものだよ」
「誰の手紙?」
「さあ」
葉子が封筒をじっと見つめ、恐る恐る手を伸ばす。史郎はその腕を掴んで止めた。
葉子は少々納得がいかないような表情で史郎を見た。しかし史郎が微笑み、首をゆっくりと横に振ると、俯いてそれきり何も言わなかった。
そして雨野を乗せた霊柩車は、けたたましいホーンを鳴らして走り出した。
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